研究課題/領域番号 |
26840139
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
牧野 崇司 山形大学, 理学部, 研究員 (00634908)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 送粉生態学 / 植物-動物間相互作用 / 視覚 / 花形質 / 植物群集 |
研究実績の概要 |
動物媒植物の多くは花を複数まとめて咲かせる。この「花序」の役割のひとつに、花粉を運ぶ送粉者に対する誘因効果の増大があげられる。本研究の最終目標は、人工花を用いた実験により花序の最適な見た目を明らかにすることである。その際に用いる花の「色」は送粉者との相互作用を論じる上で重要であることから、初年度は野外の花を30週に渡ってサンプリングし、送粉者から見た花の色の解析に注力した。 その結果得られた最大の成果は「同じ地域で同時に咲く花の色が種間で異なる傾向」と「外来種による撹乱」の発見である。野外で採取した244種の花の分光反射率を測定し、ハナバチ・アゲハチョウ・ハナアブの色覚モデルで送粉者の知覚する色の違いを定量した。そして、似た花色をした他種が少ないタイミングで開花するか否かをランダマイゼーションによって検定したところ、いずれの送粉者の目から評価しても、他種とは花の色が異なるように開花していることがわかった。同時に、外来種がそうした傾向を撹乱することも明らかとなった。互いに異なる花色についてはこれまで1例のみしか報告されていないばかりか、外来種の影響を提示したのは本研究が初めてであり、花序の見た目(色)の進化のみならず、群集構成や外来種問題を論じるうえで重要な証拠を得ることができた。 一方、行動実験に用いるハナアブの個体数を十分に確保するため、シマハナアブ(Eristalis cerealis)の継代飼育系の確立にも取り組んだが、課題の残る結果となった。野外から採取した第1世代の親アブ約40個体を交配させ採卵し、千個体以上の幼虫(第2世代)を得た。幼虫の成長は当初順調に進んでいたが、蛹になる手前で大量死してしまい、最終的に得られた成虫は33個体にとどまった。この成虫から第3世代が産まれることを期待したが、交配・産卵には至らなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた行動実験については遅れ気味である一方で、実験準備のために行った野外調査から、派生的ながらも花序の色の進化に関して重要な知見を得ることができた点では、計画以上に進展したと言える。以下、それぞれ具体的に述べる。 大きく進展したのは、同時に開花する他種の花の色が、花色の進化や、植物群集の種構成に影響する可能性を支持するデータを示せたことである。実績の概要で述べたように、野外で採取した244種の花の色を、ハナバチ・アゲハチョウ・ハナアブの色覚モデルで解析したところ、他種とは花の色が異なるように開花していることを明らかにした。こうした傾向は予想されてはいたものの、実証にこぎつけた例は非常に稀で、かつ、外来種による撹乱を合わせて示した本研究の成果は、送粉生態学の分野のみならず、植物群集や外来種問題を扱う研究者の注目を大きく集めることが期待される。 一方で、本研究の大きな特色のひとつとして掲げていた、ハナアブを用いた実験系の確立は、幼虫の大量死や、第3世代からの採卵の失敗などもあり、当初の計画ほど順調には進まなかった。ただし、野外から採取した種アブから次世代の成虫を得られたこと、エサやりなどのノウハウを蓄積できたこと、次年度における改善点を見つけられたことは重要な進展である。なお、マルハナバチを用いた行動実験についても当初の計画通りには進んでいない。これは、重要な結果となる見込みが非常に高かった花色の解析に注力したためである。なお、色覚モデルによる解析プログラムの作成や、実験に用いる人工花の制作や、実験ケージの準備などは計画通りに進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
花序形質の進化に影響する要因を解明する、初年度に得られた結果をもとに、野外調査と室内行動実験の2本立てで研究を進める。 初年度の調査で、他種とは花の色が異なるタイミングで開花していること、また、そうした傾向が外来種によって撹乱されていることがわかった。この結果は花序の見た目(色)の進化のみならず、群集構成や外来種問題を論じる上で重要な証拠である。この成果のいち早い発表を目指し、論文執筆を進める。 同時に開花する種同士で色が異なるのは、異種間の花粉移動を減らすためだと考えられる。すなわち花の色を違えることで、送粉者が他種を間違えて訪花することを防いでいる可能性が高い。したがって初年度に発見した傾向は、同じ種類の送粉者に頼る植物種間で強まることが期待される。しかしながら送粉者のデータは今のところ一切ない。今後は、花を訪れる送粉者の種類についても定期的な野外調査で明らかにし、送粉者の視覚から見た花序形質の進化についての解析を推し進める。 野外の調査に対し、行動実験でまず重要なのはハナアブの飼育系の確立である。初年度は第3世代で途絶えてしまったが、今後はそれ以上の継代飼育を目指す。初年度に問題となった幼虫の大量死に関しては水カビや酸素不足の影響が、第3世代が産まれなかったことに関しては、第2世代が散発的に羽化したことによる個体数不足や、近親交配の影響が考えられる。エサへの防腐剤の添加や、ゆとりを持ったケースでの飼育、さらには種アブの十分な確保などでこれらの問題を克服したい。また、すでに準備している人工花や実験ケージを用い、マルハナバチによる行動実験も進めていく。
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