研究実績の概要 |
生物種の分布域の決定要因を理解することは、生態学の中心的課題であるとともに、気候変動が及ぼす影響を評価する上でも重要である。本研究では、東北地方を分布南限とする多年生草本オオバナノエンレイソウを対象として、分布域の決定要因を明らかにすることを目指す。本年度は、分布南限から緯度勾配に沿った15の個体群(岩手県×3, 秋田県×1, 青森県×3, 北海道×8)において、生育密度や個体群サイズ、ならびに複数の適応度成分を測定し、緯度およびオオバナノエンレイソウの生育期間である4~7月の平均気温との間に見られる関係について調べた。その結果、生育密度と個体群サイズは中緯度(分布域の中心)で最大となり、分布限界に近づくにつれて小さくなった。個体サイズは、低緯度(分布南限)の個体群ほど小さく、花数も少なかった。シカによる果実の被食圧が高い個体群を除けば、種子生産量は低緯度の個体群ほど少なかった。幼植物の加入率(幼植物が占める割合)は中緯度で最大となり、低緯度もしくは高緯度になるにつれて低くなった。また、生育期間の平均気温は、生育密度や個体群サイズと有意な関係を示したが、上記の適応度成分との間に相関関係は見られなかった。以上の結果から、分布南限の個体群では、分布域の中心に比べて個体サイズが小さい、種子生産量が少ない、幼植物の加入率が低い傾向が見られ、これらの適応度成分が分布南限の生成に寄与している可能性が示唆された。さらに多くの個体群や適応度成分を比較することで、これらの結果についてさらに検証を行う予定である。
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