研究実績の概要 |
昨年度までの調査で、オオバナノエンレイソウの分布南限の個体群では幼植物が顕著に少なく、個体の新規加入率が低い傾向があることが推測された。分布域の中心(石狩地方)と南限(秋田県、岩手県)にある各3ヶ所ずつの個体群を対象としてデモグラフィーを観察するため、2013年5月に50個の方形区をつくり、方形区内に生育する個体(約3,000個体)をすべて金属製のタグで標識した。標識された個体を毎年5月に追跡したところ、分布南限の方が個体の加入率が低いこと、また個体の生存率が低い傾向にあることが明らかとなった。個体群動態に関しては、今後さらに詳しい分析を行う予定である。また、個体の新規加入が制限される要因を明らかにするため、前述した個体群において、2012年7月に種子を播種することで実験個体群を設けた。小面積の方形区を多数設置し、半数の方形区では他の植物種を定期的に除去し、発芽率や発芽後の生存率を2016年まで観察した。その結果、どの方形区においても、実生がほとんど定着しなかった。先行研究では、移植先の局所的な環境条件によって結果が左右される傾向があることも明らかになっており、このようなアプローチで個体群間のデモグラフィーを比較することは難しい、あるいは、かなり多くの方形区を用意する必要があると考えられる。同様に、分布域外(宮城県)に設けた方形区においても、実生がほとんど定着しなかった。今後は、交配実験や生態ニッチモデルなどを用いて、分布域の決定要因について包括的に理解するための研究を継続して行う予定である。
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