研究課題/領域番号 |
26840142
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
佐藤 綾 東京学芸大学, 教育学部, 研究員 (00611245)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 配偶者選択 / 行動シンドローム / パーソナリティ / 色覚 / オプトモーター反応 |
研究実績の概要 |
同種の同性内で「なぜ性的形質に多様性が維持されるのか?」という疑問は進化生態研究における重要なトピックのひとつである。本研究では、「雄の性的形質の多様性」を創出すると考えられている「雌の配偶者選択の個体差」がどのようにして生じるのか、行動シンドロームと呼ばれる複数の行動が関連して現れる個体の行動特性に着目して明らかにすることを目的としている。材料として性淘汰研究のモデル種であるグッピーを対象とし、本研究では沖縄県に野生化している比地川個体群を使用している。 本年度においては、「雌の配偶者選択」と行動特性の指標と考えられている個体の「大胆さ/臆病さ」がどのように関連しているのか明らかにするための実験を行なった。グッピーの雌は雄のオレンジ色の体色を指標として配偶者選択を行い、オレンジ色が大きく派手な雄に選好性を示す。この派手な雄に対する選好性を雄の編集動画を用いた二者択一実験により計測した。また、本種では個体の大胆さ/臆病さを、鳥類のモデルを用いた疑似捕食刺激に対する応答で数量化することができる。その手法を用いて雌の大胆さ/臆病さを評価し、配偶者選好性との関連を解析した。 その結果、本種では雌の大胆さ/臆病さは派手な雄に対する選好性の強さと関係していないことが示された。しかしながら、大胆さ/臆病さは個体が捕食刺激を経験する前後での選好性の強さの変化に影響を与えており、大胆な個体は捕食刺激の前後を通じて派手な雄への選好性が高いのに対し、臆病な個体は捕食刺激を経験したあと派手な雄に対する選好性が低下することが明らかとなった。この傾向は捕食刺激を与えたあと24時間を経過した後でも維持された。このことから、臆病な個体は配偶者選好性が変化しやすく、結果としてこれら個体の配偶者への好みの非一貫性が雄の体色の多様化に貢献する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、色覚に関与するオプシン遺伝子について特定の配列をもった個体を使用する予定であった。実験に使用する沖縄県比地川の個体群を対象にオプシン遺伝子の配列解析を行なったところ、実験に必要な遺伝子配列をもつ個体が少なく、目的の個体を野生個体を数世代掛け合わせることで作成しなくてはならず、その部分に関して実験が遅れている。しかしながら、目的の個体とは別の遺伝子タイプの個体を用い予備実験を行なっていることから、個体の準備完了後スムーズに遅れを取り戻せるものと期待される。
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今後の研究の推進方策 |
研究当初の予定では、同じ光環境においてより物が見える個体ほど大胆に振る舞い、派手な雄への選好性が高いといった行動の関連が見られれば、個体の行動特性と配偶者選好性の関連という行動シンドロームのメカニズムを個体の物の見え方という遺伝的背景から説明できると期待された。そのため、配偶者選択の指標となる雄の体色であるオレンジ色付近の光を吸収する長波長感受(LWS)のオプシン遺伝子に着目し、その配列多型と発現量が個体の行動特性とどのように関連するのか検討する予定でいた。 しかし、これまでの経過から、雌の行動特性が雄の体色に対する好みと直接関連しているわけではなかったため、対象とする遺伝子を増やし、短波長感受(SWS)のオプシン遺伝子、悍体の視細胞で発現するRH遺伝子についても解析するよう計画を変更する。こうすることで、オレンジの体色の見え方だけでなく、ものの見え方そのものが個体の行動特性にどのように関与しているのかを検討することができる。 今後は個体の光感受性を計測し、光感受性と個体の大胆さ/臆病さ、視覚関与遺伝子の関連を検討する。個体の光感受性は、オプトモーター反応という、魚が周囲の動きに対してどのくらいの明るさまで反応するかの閾値を計測することで数量化することができる。そして、個体の光感受性を数量化した後、捕食刺激の擬似提示実験を行い、個体の臆病さ/大胆さを計測する。それらの実験後、各個体の視覚関与遺伝子の配列解析を行い、光感受に関わる遺伝子と個体の大胆さ/臆病さの関係を検討する。 以上の結果から、視覚関与遺伝子のタイプと個体の行動特性の関連を明らかにできれば、どの遺伝子タイプをもつ個体が配偶者選択の一貫性に関与しているのか、すなわち雄の体色の多様性に貢献しているのかを示すことができる。これらの結果は、雌の配偶者選択の一貫性/非一貫性を説明する初めての知見となると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究においては沖縄県に野生化しているグッピーを使用するため、必要個体のサンプリングにかかる旅費が必要であった。当初、グッピーの活動時期を踏まえ、当該年度末にサンプリングを予定していたが、使用年度をまたいで研究代表者の所属に変更があり、変更後の所属において採集した個体を飼育するための設備を整える時間が十分でなかったため、実験個体のサンプリングを延期した。
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次年度使用額の使用計画 |
変更後の所属機関において、実験個体を飼育する設備を整備したのち、サンプリングの為に旅費として使用する予定である。
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