本研究では、メスの配偶者選択の多様性が個体の性格の違いによって説明されるか、また個体の配偶者選択と性格の関連が光感受性によって説明されるか性淘汰研究のモデル種であるグッピーを用いて検討し、メスの配偶者選択に多様性をもたらすメカニズムを明らかにすることを目的としている。 本年度は、グッピーのメスを用いて、性格と光感受性の関連について実験を行った。個体の性格は鳥類を模した捕食刺激に対する対捕食者行動から臆病さ/大胆さの指標で数量化した。光感受性はハロゲンライトを用いたオプトモーター反応閾値によって数量化した。その結果、個体の臆病さ/大胆さと光感受性に明確な関連は見られなかったものの、臆病な個体はオプトモーター反応をほとんど示さない傾向が示された。これまでオプトモーター反応では視覚的な認識とは別に反応自体を起こさない個体がいることが報告されており、本研究では、そのような個体は臆病な傾向があることを明らかにした。 また、本研究に用いたグッピー個体群について長波長光を吸収するオプシンタンパク質の遺伝子型を調べたところ、光感受性が低い遺伝子タイプをもつ個体が、光感受性が高い遺伝子タイプを持つ個体よりも数が少ないことが明らかとなった。それら遺伝子タイプと性格の関連は現在計測中である。 昨年度の研究成果と合わせると、メスの性格は配偶するオスに対する選り好みと関連を示さないものの、臆病な性格の個体は配偶者選択に時間を費やさないこと、臆病な性格の個体はオプトモーター反応を示さない傾向があることが明らかとなった。これは、繁殖のサイクルや周囲の状況に関わらず、臆病な個体は活動をしないという一貫した行動傾向をもつことを示している。今後、配偶者選択に費やす時間や捕食者に過敏に反応するという行動が個体の適応度に貢献しているか検討することで、オスの体色にかかる淘汰圧を説明できると期待される。
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