研究課題/領域番号 |
26840143
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研究機関 | 総合研究大学院大学 |
研究代表者 |
大槻 久 総合研究大学院大学, その他の研究科, 講師 (50517802)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 中立説 / 群集生態学 / 負の密度依存 |
研究実績の概要 |
本年度はランダムに生成される群集に関する理論研究を行った。前年度は負の密度依存性のみに着目したが、一般の群集では新規種が既存種に対し負の頻度依存性ではなく正の頻度依存性、つまり相利的もしくは寄生的な相互作用を持つ場合もあり、例えばヒトの腸内細菌叢においては種間で多様な相互作用が存在することが知られている。メタ群集から局所群集に新種が分散してくる場合に、新種iが既存種jから受ける相互作用強度a_ijを以下の二つのランダムな方法で生成し、移入と絶滅の準定常状態におけるSAD(個体数分布)の特徴を調べた。 (1) a_ij = - a_jiとする場合 種間は常に反対称な相互作用を持ち、これはfood-webの場合に当てはまる。この場合、無限集団におけるのランダム群集モデルの予測と同じく、有限集団においても種数個体数曲線は平坦になり、優占種の個体数と希少種の個体数は近くなる傾向を見せた。 (2) a_ijとa_jiを無相関に決定する場合 この場合、二種間に、相利的相互作用、被食捕食関係、敵対的相互作用がそれぞれ確率1/4, 1/2, 1/4で生まれる。集団の相互作用を全て平均化して見れば、仮想的には中立な群集として見えるはずであると予想したが、中立時よりもSADは優占種の個体数が大きいほうに偏り、希少種の個体数は少なくなる傾向があることを発見した。 いずれのシミュレーションでも、a_ijをランダムに生成しているので、一旦偶然にa_ijが数多くの種jに対して正となる種iが生まれると、この種は競争にどの種よりも強い"superspecies"として振る舞ってしまい、この種の影響で一時的にSADが大きく偏りを見せることがあり、SADの準定常状態を大きく乱すことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ランダム行列を相互作用として持つランダム群集モデルに関してそのシミュレーションコードを完成し、行列a_ijに関する様々な仮定に関してSADを得ることができた。ただしsuperspeciesの出現により大きくSADが乱れる等の欠点があることも分かった。MCMC-ABCの実装はまだ進められていない。
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今後の研究の推進方策 |
MCMC-ABCを行って実際の群集データとの当てはめを行う際には、a_ijを生成するモデルを少数のパラメータで記述する必要があるので、その方法について検討していく。またsuperspeciesの出現を防ぐためには、ある程度局所群集のサイズを大きくして、偶然にそのような種が出現しないようにする必要があるため、そのために必要な選択の強さと局所群集の大きさの関係を定量化するところから3年目は始める。また、成果を随時論文にまとめ、学会等で発表していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
種内効果のシミュレーション、およびランダム群集のシミュレーションを2年目までに行うに当たって、1年目までの予算でコンピュータ資源等の実行環境も整い、また学会等で進捗を発表するまでの成果には至らなかったため、物品費、旅費ともほとんど使う必要が生じなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
当初の目標であるMCMC-ABCの計算のソースコードがまだ手付かずの状況であるため、機械学習に詳しい研究補助者を年度の初めから3ヶ月間雇用し、補助者の助けを得てMCMC-ABCの実装を集中的に行う。
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