植物は菌根菌との共生によってリンや窒素など成長に不可欠な栄養を効率良く獲得することができる。陸上植物種の90%以上が菌根菌と共生しており、菌根共生は植物の生存・成長にとって不可欠であると考えられている。菌根菌の種類によってホスト植物へ対する効果が異なるという知見が得られており、ホスト植物の適応度(成長や繁殖可能性)は共生する菌根菌のレパートリーによっても左右されることが予想される。 この菌根共生と呼ばれる共生において植物と菌根菌が互いにどの種と共生するかは、それぞれの遺伝的背景によってある程度決定されると考えられる。特定の環境条件でホスト植物の適応度を高める菌根菌があった場合、その菌と共生可能な遺伝的背景を持つ植物個体はその環境においてより多くの子孫を残すことができ、時間とともに、その菌との共生を可能にしている遺伝子が植物集団内に広がる。特定の菌根菌と植物との共生関係はこのように進化している可能性がある。しかし、植物ゲノムにおいて特定の菌根菌との共生を司る遺伝子は明らかになっていない。 本研究では、菌根共生に関わる遺伝的領域を植物ゲノムの中から探索するため、 互いに近縁種で野外において種間交雑が認められているカシワとミズナラ合計45個体において根に共生する菌根菌群集を個体ごとに解析し、菌根菌群集に個体変異があることを明らかにした。また、RAD法によって供試植物個体のSNPマーカーを網羅的に解析し、植物個体ごとの遺伝的組成を明らかにした。これらのデータから各植物個体の遺伝的組成と共生する菌根菌組成との関連を解析したところ、植物個体の遺伝的組成が似ているほど担子菌類の種組成が似ていたが、子嚢菌類に関しては傾向は見られなかった。このことから、外生菌根を形成する担子菌類の共生はホスト植物個体の遺伝子との関連が示唆された。
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