研究課題/領域番号 |
26840146
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
岡野 淳一 京都大学, 生態学研究センター, 研究員 (20547327)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 微生物群集 / 多様性 / 生態系エンジニア / ニッチ構築 |
研究実績の概要 |
本研究は、川虫の一種であるトビケラがつくる捕獲網(ニッチ構築)に、微生物を栽培する機能があること(農耕仮説)を実証し、網によって微生物の群集動態にどのような影響があるかを明らかにする。これによりトビケラの生態系エンジニアとしての新たな役割を明らかにすることを目的としている。 これまでトビケラの生態系エンジニアとしての役割は、底生無脊椎動物群集への影響に着目された研究しか行われておらず、微生物群集への影響についてはほとんど未知である。河川は陸域と海域との物質循環の接点であり、体内の栄養を運ぶ血管のような重要な役割を果たしている。その中で微生物は、河川中の栄養塩循環の基幹機能である貯留・取込の機能を果たしている。特に微生物の種多様性は重要であり、たとえばCardinal (2004, Nature)では微生物の種多様性が高いほど、水中の栄養塩の取込速度が高くなることを示している。このような背景から、トビケラの造網によって、微生物の多様性が高まることが示されれば、物理的な生態系エンジニアと考えられてきた生物種が、水質浄化という化学的環境改変ももたらしているという新たな役割が明らかになると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
26年度は、顕微鏡観測による群集組成の評価および培養実験を行い、網状の微生物群集の成立過程を観測する計画であった。しかし、実際に野外の網上に生息する生物を観察すると、当初考慮していた細菌・真菌・植物プランクトン・原生生物のほかに、線虫、ワムシ、クマムシ、ミジンコ、ダニ、淡水海綿などが網上にのみ生息していることが分かってきた。この観察結果は、当初の予測以上に特異的な群集組成が成立していることを示しており、トビケラ網の多様性への影響についてインパクトを持った成果を得ることができると期待できた。そこで今年は、群集の多様性の評価のための遺伝子解析をクローニングライブラリーによって行った。しかし、生物量としての動物プランクトンは少ないため、当該の解析では検出することができなかった。そこで動物プランクトンについてはシングル・セルから遺伝子解析によってプライマリーを作成し、多様性解析をする必要性が明らかになった。くわえて、26年度は調査地点が台風により、対象種のヒゲナガカワトビケラが激減し、十分なサンプルを得ることができず、本格的な多様性解析には至らなかった。
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今後の研究の推進方策 |
26年度はデータとして目に見える結果を得ることが出来なかった。しかし、それは当初期待したよりも、トビケラの網がもたらす多様性への影響が高かったという将来の期待ももたらした。26年度はその予想以上の結果を評価するために、ライブラリークローニングやシングルセルによるプライマリー作成などの準備は行えた。そこで、27年度以降は、それらの遺伝子解析技術を用いて、トビケラ網の微生物群集の多様性への影響を評価していく。また、動物プランクトンの生息が確認できたことから、トビケラ自身の餌としても質が高い可能性も十分に期待できた。これまで胃内容分析から珪藻が重要な餌起源だと考えられてきたが、それは消化できずに残ったSi殻があるゆえであると考えられ、実際に、数多くの胃内容分析を行ったところ、クマムシやワムシなどの比較的消化しきれないものが胃内容に確認できた。そこで胃内容の遺伝子解析まで行うことで、トビケラが餌の質を高めるために網を張っているという『農耕仮説』を実証していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度は調査地点が台風により、対象種のヒゲナガカワトビケラが激減し、十分なサンプルを得ることができず、本格的な微生物群集の解析には至らなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
当初期待したよりも、トビケラの網がもたらす多様性への影響が高かいという予備結果を得ることができた。27年度はその予想以上の結果を評価するために、ライブラリークローニングやシングルセルによるプライマリー作成などにより、トビケラ網の微生物群集の多様性への影響を評価していく。よって主に遺伝子解析用の試薬や機器使用、そして野外調査の旅費に研究費を使用する。
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備考 |
在籍する京都大学生態学研究センターが主催する、DIWPAやJaLTERの活動の一環として開催された河川生態学に関する国際共同ワークショップにティーチング・アシスタントとして参加し、学振研究の結果を報告し、京都大学の学部生ならびに東南アジア圏の若手研究者との交流活動を行った。
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