研究課題
マレーシアなど低地熱帯雨林の骨格を形成するフタバガキ科樹木(Dipterocarpaceae)は、数年に一度しか開花しない「一斉開花」で知られている。本研究は、フタバガキ科をはじめとする東南アジア熱帯雨林構成樹種の種子食性昆虫相や寄主利用様式を、DNAバーコーディングを用いて網羅的に明らかにすると共に、本地域における植物―種子食性昆虫の共種分化の過程を明らかにし、その相互作用系の解明を目的とする。平成27年度は26年度に引き続き、主に昆虫サンプルの収集を行った。26年度の一斉開花において収集した種子から羽化脱出した成虫のサンプリングを行った。また、昨年の一斉開花で開花せず、本年度に開花が見られた25樹種の種子を追加し、種子食性昆虫の飼育と成虫のサンプリングを行った。さらに、ボルネオ島ランビル国立公園の協力研究者からも種子食性昆虫のサンプルを提供してもらった。これら種子食性昆虫の出現頻度は、フタバガキ科樹種においてその他の樹種に比べて有意に高いことが分かった。これは、一斉開花のように年変動の激しい種子生産は昆虫による種子食害率の高い植物において進化しやすい、という仮説を支持する結果である。次に、これらの昆虫サンプルについて、DNA情報の解析を行った。DNAの抽出には、のちに形態の再確認ができるよう足1本など体組織の一部を用いた。またバーコーディングには、ゾウムシを含む昆虫類の系統解析に有用であるミトコンドリア遺伝子のCO1領域およびリボソームRNA遺伝子の16S領域を用いた。現在、これらの情報をもとに種子食性ゾウムシ類の系統樹を作成中である。
2: おおむね順調に進展している
当該地域においては、植物の種子生産が低頻度かつ不定期であるため、種子や種子食性昆虫のサンプリングは通常難しいが、幸運にも大規模な開花・結実が研究の開始年に起こったため、多くのサンプルを得ることができた。また、今年度もさらに追加サンプルを加えることができた。調査許可や現地の調査体制についても準備を整えることができた。さらに、他地域の研究者との連携も順調で、他地域のサンプルも含めた網羅的な調査ができている。また、これらのサンプルのDNA解析も順調に開始することができ、系統樹や寄主利用様式の解析に必要な情報が蓄積され始めている。
研究はおおむね計画通りに進捗しているので、来年度も計画に沿って研究を行う。特に、DNA情報をさらに蓄積し、系統樹や寄主利用様式などについて解析を進める。また蓄積したDNA情報をもとに1年以上休眠する幼虫の種同定も行う。
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