研究課題
マレーシアなどの東南アジア低地熱帯雨林の骨格を形成するフタバガキ科樹木は、数年に一度多種が一斉に開花・結実する「一斉開花現象」で知られている。本研究は、フタバガキ科をはじめとする東南アジア熱帯雨林構成樹種の種子食性昆虫相や寄主利用様式を、DNAバーコーディングを用いて網羅的に明らかにすると共に、本地域における植物―種子食性昆虫の共種分化の過程を明らかにし、その相互作用系の解明を目的とする。平成28年度はこれまでに得られたフタバガキ科種子食ゾウムシのDNA(COIと16S領域)解析を行い、概ね解析を終えることができた。これにより、フタバガキ科の種子食ゾウムシは、ゾウムシ科とホソクチゾウムシ科の大きく二つのグループに分けられることが分かった。また、これらのゾウムシには、種子とともに地表に落下してから数週間以内に羽化脱出するものがある一方で、地表落下後、土壌中で幼虫のまま休眠し、半年から1年以上かけてバラバラのタイミングで成虫になるものがあることが分かった。休眠幼虫の25%は少なくとも30か月間土壌中で生存できることが確認された。このような長い幼虫休眠は、稀で不定期なフタバガキ科の種子生産に適応したゾウムシの生存戦略であると考えられる。これらの休眠する幼虫はDNA解析の結果、1つの分類グループに属し、ゾウムシ科よりもホソクチゾウムシ科に近い仲間であることが示唆されたが、今後成虫サンプルに基づき、より確かな種同定を行う必要がある。一方、広範な非フタバガキ科(31科79種)を対象とした種子食昆虫調査を行ったものの、フタバガキ科の種子食昆虫は全く発見されなかった。したがって、フタバガキ科の種子食昆虫が一斉開花期以外の時期に非フタバガキ科の寄主を利用していることは考えにくく、幼虫休眠しないグループも成虫休眠など何かしらの方法で長い非結実期を生存していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当該地域においては、植物の種子生産が低頻度かつ不定期であるため、種子や種子食性昆虫のサンプリングは通常難しいが、幸運にも大規模な開花・結実が研究の開始年に起こったため、多くのサンプルを得ることができた。今年度は、昨年度までに収集したゾウムシサンプルのDNA解析を概ね終わらせることができ、今後の系統解析や寄主幅の解析に必要な基礎データを得ることができた。また、研究開始年に収集したゾウムシの幼虫を長期間飼育することで、これらの羽化時期や生存可能期間を明らかにすることができた。
研究はおおむね計画通りに進捗しているので、来年度も計画に沿って研究を行う。まず、成虫の形態情報およびDNA情報を用いて、幼虫休眠するゾウムシ群の同定を行う。また、これまでに収集したフタバガキ科を中心とした樹種の種子食昆虫のDNA情報に基づいて、これらの昆虫の寄主幅や系統関係の解析を行う。特に、寄主植物の系統樹と比較解析し、共種分化の有無など、種子食昆虫の寄主利用様式について進化生物学的観点から検討を行う。今年は最終年度であるので、これらの結果を取りまとめ、学会や学術誌で発表を行う。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
Biotropica
巻: 49 ページ: 177-185
10.1111/btp.12371