マレーシアなど低地熱帯雨林の骨格を形成するフタバガキ科樹木(Dipterocarpaceae)は、数年に一度しか開花しない「一斉開花」で知られている。本研究は、フタバガキ科をはじめとする東南アジア熱帯雨林構成樹種の種子食性昆虫相や寄主利用様式を、DNAバーコーディングを用いて網羅的に明らかにすると共に、寄主植物との対応関係を明らかにし、本地域における植物―種子食性昆虫相互作用系の解明を目的とする。 平成29年度はこれまで得られたフタバガキ科種子食ゾウムシのDNA情報(COIと16S領域)をもとに系統樹を書き、整理した。その結果、フタバガキ科の種子食ゾウムシは、アシナガゾウムシ(Curculionidae:Alcidodes属)とホソクチゾウムシ科(Nanophyidae)のほか、これまで成虫としてはほとんど得られていなかったシギゾウムシ(Curculionidae:Curculio属)やヒゲナガゾウムシ(Anthribidae)のグループが存在することが分かった。また、これらのゾウムシの系統情報と寄主植物の系統情報を合わせて整理すると、アシナガゾウムシ,ホソクチゾウムシ、シギゾウムシはそれぞれフタバガキ科樹種を概ね属特異的に利用していることが分かった。さらに、アシナガゾウムシはフトモモ科やシナノキ科などから、ヒゲナガゾウムシはアオギリ科やマメ科やブナ科などからも見られ、この地域の主要な種子食昆虫グループであろうと考えられた。一方で、種子食昆虫の種数や寄生率はフタバガキ科樹種において他の樹種よりも高いことが分かり、フタバガキ科における一斉開花の進化との関連は興味深い今後の課題である。
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