本研究では、位置や行動が通年記録できる動物装着型の記録計(ジオロケータ)を用いてウミネコの非繁殖期の分布や採餌頻度を調べ、それらと繁殖直前の生理状態およびその後の繁殖行動との関連を明らかにする。非繁殖期から繁殖期へのキャリーオーバー効果を明らかにすることで、二つの時期をまたいだ動物の生活史形成の行動・生理学的なプロセスを解明する。 最終年度である本年は、昨年に装着したジオロケータの回収、およびキャリーオーバー効果の年変化を検証するため、昨年と同様に回収個体の生理状態と繁殖投資量の測定を実施した。昨年新たにジオロケータを15個体に装着したが、繁殖地が人為的な攪乱を受けて消滅してしまったため、1個体も回収できなかった。そのため、近隣の別の繁殖地において18個体から血液をと羽を採取し、血中酸化ストレスレベルと羽の安定同位体比を測定した。 その結果、2016年の繁殖期のメスの血中抗酸化レベルは、2015年よりも高かった。また、2015年と同様に、2016年においても抗酸化力が高いほど体重あたりの合計卵体積が小さかった。さらに、血中抗酸化力は、2015年においては風切羽P7の炭素安定同位体比と、2016年においては風切羽P5の炭素安定同位体比とそれぞれ相関していた。ウミネコの風切羽P5およびP7の炭素安定同位体比は、それぞれ前年の冬および早春の利用海域の違いを反映すると考えられている。そのため、本種の繁殖期投資量を決める抗酸化力は、前年越冬期の利用海域の影響を受けるが、どの時期の海域利用が最も強く影響するのかは年によって異なることが示唆された。
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