近年、水棲生物が環境中へと放出している遺伝物質が生物の分布や生物量の推定に利用されるようになった。ただ、その放出速度に対する環境条件の影響や水中での存在時間等については不明な点が依然多く、水産業等への実用化の障壁となりつつある。本研究ではこの分析技術の信頼性や実用性を高めるため、対象生物の生物量や代謝量をより高精度に非接触で推定しうる基礎技術を開発することを目的とした。試料水中に含まれるDNA(環境DNA)は採水直後から急激に分解することがこれまでに研究で明らかになっている。これは環境DNA分析の信頼性にとって大きな問題であり、現場で即時に濾過を行うことで問題を解消することとした。これを実現するために車載して利用可能な12Vで稼働するろ過システムを新規に開発し、採水後速やかに濾過を行って、フィルターを冷凍保存するという系を確立した。ブルーギル由来の環境DNAを対象として分析したところ、常温で6時間インキュベートした試料水と比較して、約3倍量のDNAが検出された。この現場ろ過システムとその効果については国際学会で報告した。一方で、環境水中に含まれるRNA(環境RNA)についてもその測定値に想定していた以上の大きなばらつきが生じることが明らかとなった。これは環境DNAと同じく、さまざまなサイズで構成される環境RNAを含む粒子(細胞や組織片)が試料水中にどのようなサイズ分布で補足されるかという確率的な問題から生じていると考えられた。まだこのばらつきを解消するには至っていないが、継時的な環境RNAの分解を測定した実験からは水棲生物から放出された環境RNAが予想に反して24時間ほど経過してもまだ定量可能なだけ残存することが示唆されており、ばらつきの低減策を開発すれば環境RNAを測定して生物の活動状況を知る手がかりを分析可能であることが明らかになった。
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