本研究では、一部の昆虫が、幼虫期に限られた1種の植物のみを食べる理由を明らかにすることを目的としている。生物同士の共生関係の中には、1種対1種の極めて高い種特異性を示すものがいる。中でも、昆虫には限られた1種の植物のみを食べるものが多く知られている。より多くの植物を食べられる方が生存には有利になると考えられるものの、極端な専食性が維持される要因は明らかになっていない。特に、植食性でありながら、花粉を運ぶことで植物と相利共生関係を結んでいる昆虫においては、特定の植物のみを食べる理由は明らかになっておらず、進化学研究の残されたテーマの1つである。 そこで、本研究では、カンコノキとハナホソガの送粉共生系を題材として、1種対1種の高い種特異性がもたらされる要因の解明を目指してきた。 本年度(平成28年4月1日から平成29年3月31日)は、前年度の実験の続きを行い、データ数を増やすことを目標とした。これまでに確立した室内実験系を用いて、ハナホソガに寄主とは異なる植物の種子を食べさせる実験を行い、寄主である植物を食べた場合と、寄主ではない植物を食べた場合の死亡率、生存率などを明らかにしてきた。前年度までの結果と同様、ハナホソガは寄主以外の植物を食べた場合、食べてから48時間以内に死亡することが明らかになった。一方、寄主植物を食べた場合には48時間以上生存していた。しかしながら、寄主植物を食べた場合にも72時間-96時間で死亡する個体が多く、実験上の操作がハナホソガの生存率に影響していることが考えられる。 本研究を通じて、1種の植物のみを食べるハナホソガは、近縁な多種があってもうまく食べて成長することができない可能性が示唆された。今後は、植物種間での栄養や毒となる物質の違いを比較し、ハナホソガの生存・死亡に関わる要因を明らかにしていく必要がある。
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