研究課題/領域番号 |
26840156
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
久保 大輔 筑波大学, 体育系, 特任助教 (00614918)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 化石人類 / ジャワ原人 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、頭蓋腔の形態とそこから推定される脳の解剖学的特徴に関して、ホモ・エレクトスの種内変異とジャワ原人内での進化的変遷を明らかにすることである。平成26年度には、ジャワ原人の不完全なエンドキャスト(頭蓋腔鋳型)を対象に、現代人の個体変異情報を利用して欠損部位を数理的に補完する手法を用いて一通りの復元を行ったものの、復元手法の精度評価が不十分であった。そこで平成27年度には、完形のエンドキャストを仮想的に欠損させたモデルを対象に復元実験を行ない、頭蓋の破損状況と脳容量推定誤差の関係を定量的に評価した。具体的には、頭蓋の欠損が激しく、エンドキャストの全長や全高、前後軸の向きが定まらないケースへも応用できるように、現代人で構成される参照群の変異を基に全長、全高、軸の向きの推定誤差を評価し、これらの誤差要因が最終的に得られる脳容量の推定値に及ぼす効果を明らかにした。また、仮想欠損エンドキャストを頭蓋腔が完形に近いジャワ原人個体から作成しその復元実験を行なうことで、本手法が他のエレクトス化石へ適用可能であることが確認された。定性的形態研究に関しては、エンドキャストの実体模型と実物化石のCT画像を併用した観察によって、ジャワ原人の頭蓋腔表面に分布する脈管に関する解剖学的変異を調査した。頭頂骨の前部内面に分布する硬膜動脈(中硬膜動脈前枝)は、現代人では一般に外頚動脈に由来するが、平成27年度の観察により2個体のジャワ原人頭骨化石において、同頭蓋腔領域に分布する動脈が内頚動脈に由来する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度中には、ジャワ原人9個体分を対象に数理的手法による欠損部位の復元と脳容量の算出が一通り完了したことから、平成27年度の当初計画では復元済みのエンドキャストを対象にした三次元形態解析を実施する予定であったが、研究を進める中で、復元プロセスにおける誤差要因の影響をより詳細に調べる必要があることがわかってきた。そこで、三次元形態の解析を保留し、復元に付随する諸々の誤差要因とその影響を評価するための追加実験を実施した。この追加実験によって、欠損が激しく頭蓋腔の全長や全高、前後軸の向きが定まらない化石資料(頭蓋底が欠損したトリニール2号や前頭部が欠損したサンギラン4号など)を対象に数理的復元を行った場合に想定される誤差を定量的に把握することができた。すなわち、誤差要因の詳細な分析を行なったことで、数理的復元の適用範囲が広がり、主要なジャワ原人化石の脳容量とその推定誤差を算出するために必要な基盤が整備されたといえる。定性的分析に関しては、エンドキャストのみを対象としてきた旧来の研究とは異なり、高解像度CT画像を併用することで硬膜動脈の起始を捉えることができた。その結果、ジャワ原人の少なくとも2個体において、頭頂骨の前部内面に分布する動脈が外頚動脈ではなく内頸動脈に由来する可能性が示唆された。以上に記したように、一部計画の変更があったものの、ジャワ原人の脳容量を確定するための分析、および定性的形態記載において着実に研究が進展しているため、概ね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度と平成27年度に行なった研究によって、欠損部位のある頭蓋腔を復元する数理的手法の開発とその誤差評価が概ね完了し、14標本のジャワ原人頭骨について脳容量推定値が得られている。ただし一部の脳容量推定値はレプリカに基づく復元のため信頼性に問題がある。また昨年度までの復元実験では、4つのジャワ原人頭骨の欠損状況を模して行なったが、その他の化石標本の脳容量推定誤差をより正確に把握するには追加の復元実験を行なうことが望ましい。そこで、平成28年度には、まずは現代人仮想欠損モデルを使った数理的復元の精度検証に焦点を絞り論文を投稿する予定である。次いで、ジャワ原人の脳容量の推定結果を論文化する必要があるが、それに先立ち以下の分析を行なう。第一に、レプリカでの復元を行っていたジャワ原人2個体について実物化石の高解像度CTデータが入手できたので、これらを数理的手法で復元し、より信頼性の高い脳容量を算出する。第二に、復元対象個体の欠損状況を模した復元実験を追加で行なう。以上の脳容量に関する研究に加えて、基礎的な形態記載研究を進める必要がある。平成28年度中に2011年に脳容量を報告したスカルIXの頭蓋腔形態に関する論文を執筆投稿する予定である。定性的な観察に関しては解剖学的構造の見落としや誤認を防ぐため、作成済みのエンドキャストだけでなく、その元データである実物標本の高解像度CT画像を再度精査する。
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