先史人類が太平洋島嶼域を移動した時期や経路を探り、ヒトの島への適応を考察する事が目的である。古くからヒトに食料として利用されたイノシシ・ブタに着目し、その運搬時期や経路を、現生試料と先史遺跡由来の骨のDNA解析から検証した。 期間全体を通じ、まず琉球列島での運搬を検証した。具体的には①琉球列島の野生イノシシ(リュウキュウイノシシ)の現生試料、および②先史遺跡出土の骨のDNAを解析した。①は遺跡出土試料の比較情報として重要で、本研究では生息する全ての島の個体を初めて解析した。この結果リュウキュウイノシシは1つの系統に由来する集団である事が示唆された。最終年度は奄美大島や徳之島、沖縄島で追加解析を行い、集団に地理的隔離が生じている可能性を示した。本成果を基に、今後の解析では各島の集団が成立した時期を検証できる。②では奄美群島、沖縄島、宮古島、石垣島の出土試料を解析し、複数の先史遺跡でリュウキュウイノシシと遺伝的に異なる系統に属す個体を検出した。①の成果と合わせると、別系統の個体は先史人類によるイノシシ・ブタ運搬に由来する可能性がある。また考古学の知見と融合すると、複数の運搬経路があった事も考えられた。最終年度は徳之島や石垣島の出土試料を解析したが、多くはDNAの保存状態が悪く、ミトコンドリア(mt)DNA断片を増幅できなかった。 また③海外諸地域でのイノシシ・ブタ運搬を探るためベトナムのHang Cho遺跡やMan Bac遺跡、ミクロネシアのFais島先史遺跡の試料を解析した。最終年度を含む全期間を通じ解析を複数回繰り返したが、mtDNA断片を増幅できなかった試料が多かった。増幅できなかった物を含む全てのDNA試料は、次世代シーケンサー(NGS)解析により遺伝情報を詳細に得られる可能性がある。今後は本研究で収集した抽出済みDNAを活用し、NGSによる再解析を行う。
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