本研究では、呼吸性アルカローシス誘導法の違いが運動時の酸素摂取動態に及ぼす影響の差異を明らかにし、さらに、運動前の呼吸性アルカローシス誘導時間が運動時の酸素摂取動態に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。 1年目及び2年目には、呼気終末二酸化炭素分圧を20 mmHgに制御、あるいは呼吸数を60回/分に制御して呼吸性アルカローシスを誘導し、高強度ステップ負荷での自転車運動負荷試験を行なった。呼吸制御の時間は運動負荷試験開始5分前から運動負荷試験終了時までとし、実験中、呼吸系及び循環系パラメータを非侵襲的に測定した。実験の結果、高強度負荷運動中の呼気終末二酸化炭素分圧制御群における酸素摂取量及び呼吸商が他の条件群よりも低くなることが明らかになった。また、高強度負荷運動開始時における酸素摂取量応答の時定数は、呼気終末二酸化炭素分圧制御群が最も小さい値となった。これらの結果より、高強度負荷運動時、呼気終末二酸化炭素分圧制御群において脂質を用いた有酸素性エネルギー代謝が最も効率よく行なわれた可能性が示された。この知見は、呼吸性アルカローシス時のエネルギー代謝システムを理解する上で大いに貢献し得る。 2年目及び3年目(最終年度)には、呼吸性アルカローシスが血液ガス・イオン成分にどのような影響を及ぼすかを明らかにするために、ラットに対して麻酔下で呼吸制御前、呼吸制御5、10、15、及び20分後に頸動脈より採血して血液ガス分析を行なった。呼吸制御時、換気量は制御前の1.5倍となるように制御した。実験の結果、換気量増加後すぐに血液pHの増加及び血中二酸化炭素濃度の減少が確認された。これらの結果は、呼吸制御時に呼吸性アルカローシスが動脈血内でも確実に生じていることを示しており、呼吸性アルカローシス下における運動時の血液内環境とエネルギー代謝動態との関係を解明する上で重要な知見となる。
|