イネ変異体segmented embryo(sem)はひとつの胚が複数に分割した胚発生変異体である。これまでの取り組みにより、semでは胚発生の初期における極性の構築に異常を有することが示唆されており、semはメバロン酸経路の代謝に関わる酵素遺伝子に変異を有することが明らかとなった。しかし、原因遺伝子を大腸菌にクローニングしたところ大腸菌が致死したため、相補性試験や過剰発現体の作出などが実現できていない。そこで平成28年度は以下の2実験を行なった。 (1) CRISPRによるSEM関連遺伝子の変異体の作出 上記理由により手法を変更して新たにCRISPR法を導入し、ジーンターゲッティングによりSEM遺伝子の機能欠失変異体を作出した。これによりアミノ酸置換を伴う変異体の作出に成功したが、これら形質転換体に着生した種子の胚形態に異常は認められなかったため、得られた形質転換体の遺伝子変異は機能欠失には不十分であると考えられた。SEM関連遺伝子の多重変異体を作出するため、同様にCRISPR法を用いて関連遺伝子全てに変異を生じた形質転換体を作出したが、いずれの個体も全て生育途中で枯死したことからメバロン酸経路の代謝を完全に阻害することは致死的であると考えられた。 (2) 野生型に対するメバロン酸経路の阻害剤投与 メバロン酸経路の下流ではクロロフィルやジベレリン、ステロールなど多様な代謝産物が合成される。そこで、semの胚発生異常がどのような代謝産物に起因するかを明らかにするため、野生型にメバロン酸経路の阻害剤を投与した。SEMタンパクを阻害する阻害剤を投与したところsemの表現型を再現することができた一方、下流の阻害剤を投与しても胚の成長は阻害されたもののsemの表現型を再現することはできなかった。これらのことから、semの胚発生異常は複数の代謝産物の異常に起因することが推察された。
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