研究課題/領域番号 |
26850008
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
松村 篤 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 助教 (30463269)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | リン獲得 / セスバニア / アーバスキュラー菌根菌 / 根系 / 土壌微生物 / リン脂質脂肪酸 |
研究実績の概要 |
土壌中のリンに対して形成される特徴的な根(リン酸獲得根)に着目し,その生理的機構と低リン条件下でのセスバニアやダイズのリン獲得戦略を明らかにすることを目的に研究を進めている.今年度は,セスバニアが形成するリン酸獲得根と土壌微生物との関係を明らかにすることを主な目的として研究を遂行した.リン酸獲得根が包み込んだ土壌とリン酸獲得根以外の根における根圏土壌,過石周辺土壌および非根圏土壌をそれぞれ採取し,可給態リン酸濃度,土壌pHおよび微生物バイオマス量を分析した.可給態リン酸濃度は過石周辺土壌よりもリン酸獲得根が取り囲んだ土壌で有意に高く,土壌pHはリン酸獲得根の土壌で最も低かった.さらに,これらの土壌を用いたリン脂質脂肪酸分析の結果から,リン酸獲得根が取り囲んだ土壌は微生物バイオマス量が最も高く,他の土壌と異なる微生物相が形成されていた.これらのことからリン酸獲得根は単にリン肥料を囲み込むだけではなく,可溶化したリン酸を効率よく吸収するために土壌環境を変化させている可能性が示唆された.また,リン栄養を向上させるアーバスキュラー菌根菌とリン獲得根との関係について検討した結果,アーバスキュラー菌根菌の感染はリン酸獲得根の形成を抑制していることが示唆された.両者は相互に影響しあいリン吸収を高めているが,アーバスキュラー菌根菌の感染の方がリン酸獲得根よりも地上部のリン吸収に対する寄与度が高いことが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初,計画として挙げたリン酸獲得根の形態形成と生理的機構の解明については形態学的・解剖学的観察やリン酸吸収に関与する土壌微生物と特殊根との関係がほぼ終了し,順調にデータが蓄積されつつある.一方,他作物におけるリン酸獲得根の研究については,イネ科(エンバクおよびライムギ)について有る程度の知見が得られたものの,マメ科については今年度の課題として持ち越した.特に,ダイズについては昨年度に採種したダイズコアコレクションの品種を用いて今年度重点的に研究を行う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
リン酸獲得根ではリンを可給態化するために有機酸や糖類など様々な物質が分泌されていると予想される.リン酸獲得根の周辺で土壌微生物バイオマス量が高いことからもそのことがうかがえる.低リン耐性においてリン酸を可溶化させる有機酸は注目すべき点であり,有機酸代謝酵素群の活性変動によって分泌される有機酸の種類や量が変化していると考えてられる.そこで今年度はリン酸獲得根から放出される有機酸を同定し,定量化する.また,特殊根の形成が確認されたダイズを実験材料として,それぞれの作物品種間での特殊根の形成数の違いやリン吸収量の比較をする.実験材料として,世界の品種を対象にゲノムの多様性や形態的特性,地理的分布など考慮して作成されたNIASコアコレクションを実験に供試し,品種間差異の有無を検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験に使用する実験植物の採種が遅れたため
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は世界のダイズコアコレクションの中で採種できたダイズ品種を用いてリン酸獲得根形成の品種間差異を明らかにする.セスバニアと同様に根を可視化できるライゾトロンに各品種を播種し,リン酸獲得根を主として根系発達の観察を行う.次年度に持ち越した予算は,栽培用の実験資材および顕微鏡観察用の試薬に充てる予定である.
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