核内倍加とは有糸分裂を伴わずに核DNAが複製され、核内DNA量が増加する現象であり、イネ科植物の胚乳細胞でも行われている。本研究では、核内倍加が水稲胚乳組織の発達に及ぼす影響を明らかにすることを目的としており、平成27年度は(1)核内倍加の遺伝的差異、(2)栽培・環境条件による核内倍加の変動について調査するとともに、胚乳組織の発達と比較した。 (1)に関しては、昨年度と同様に、核内倍加の進行に品種間差が認められ、また、両年度の結果には有意な正の相関が認められた。核内倍加程度と胚乳組織の発達を比較したところ、核内倍加程度の高い品種では成熟穎果の胚乳細胞の大きさが大きい傾向が認められた。 (2)に関しては、高温耐性の弱い品種「ヒノヒカリ」と強い品種「にこまる」を対象に、登熟期の気温条件が核内倍加に及ぼす影響を検討した。適温条件では両品種で核内倍加の進行に違いは認められなかったが、高温条件では「ヒノヒカリ」で「にこまる」よりも核内倍加の進行は抑制されていた。また、成熟期の粒重に関しても、適温条件では両品種の間に有意差は認められなかったが、高温条件では「ヒノヒカリ」で「にこまる」よりも有意に粒重が低くなった。 これらのことから、水稲胚乳組織における核内倍加の進行程度には遺伝的な差異に加えて環境条件の影響も存在し、結果として生じる核内倍加の相違は細胞の大きさの変動を通じて胚乳組織の発達に影響を与える可能性が考えられた。
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