日本におけるダイズは主に水田転換畑で栽培されている。播種期が梅雨期と重なることから発芽から出芽にかけての幼苗期に湿害の被害を受けやすく、品質や収量の低下の要因となっている。本研究は、これまでに行ってきた耐湿性育種素材の探索により見いだした出芽期において冠水下で顕著に伸長するダイズ品種を用いてその伸長機構を解明することを目的とする。冠水下で伸長し水面上に芽を出すことで完全な冠水状態を回避できるため、この形質が耐湿性向上に貢献する可能性がある。 冠水下のダイズが伸長により水面上に芽を出すことによる湿害回避の効果を評価できる系の構築および冠水下での植物ホルモン応答の品種間比較解析を試みた。評価系の構築では、冠水時に用いる土、容器、水量、光量、冠水時期、冠水期間等の条件について検討し、冠水下で伸長する品種・しない品種の差が明確となる系を構築した。構築した系を用いた解析により以下のことが明らかとなった。伸長する品種でも出芽前の冠水では顕著な伸長は見られず、出芽後の冠水で顕著に伸長すること、伸長する品種は冠水後2日で水深5.5cmの水面上に子葉部を出し初生葉の展開を始める一方で、伸長しない品種では5日以上経過後水面上まで伸長するものの生育障害が観察されること、伸長する品種の伸長度には光が関与しており、20 μmol m-2s-1程度の光で伸長が促進されること、が明らかになった。また植物ホルモン生合成阻害剤を用いた解析から冠水下の伸長性へのジベレリンの関与が推定された。これらの結果から、冠水下の伸張の品種間差には、冠水下での伸長抑制の程度、光感受性、植物ホルモン作用機序の違いが関与していることが示唆された。これらのことは冠水下ダイズ伸長制御機構の解明に有用な基盤的情報となる。
|