本研究の目的は、リンゴ果実において見られるⅡ型赤果肉形質の原因遺伝子であるMdMYB110aの内在性プロモーターを自己活性型へと機能改変することにより、MdMYB110a遺伝子が安定的に高発現する良着色赤果肉リンゴを育成するための基礎的な知見を得ることである。申請者らはこれまでにMdMYB110aの単離と機能解析を進めてきており、本研究ではMdMYB110a転写因子のDNA結合モチーフ配列の同定と、同定した結合モチーフを内在性プロモーター配列へ挿入することによる自己活性型への機能改変を目指す。 最終年度は、前年度に確立したアグロインフィルトレーションを介したGUSをレポーター、ルシフェラーゼをリファレンスとした一過的発現系により、MdMYB110aの結合モチーフの同定を試みた。しかしながら、ポジティブコントロールとして用いた転写因子と比較してMdMYB110aを標的とした場合の実験のバックグラウンドが高く、結合モチーフを明確に絞り込むことは出来なかった。この問題点を解決すべく、別の一過的発現系にてMdMYB110aの転写因子活性を高めることが報告されているbHLH2をシロイヌナズナより単離し、MdMYB110aとの共発現を試みたが、問題の解決には至らなかった。 一方で同一果実中で着色程度が明瞭に異なる果肉を用い、Differential Display法を適用した結果、着色組織と非着色組織との間で発現量が異なる遺伝子としてアブシシン酸応答性遺伝子を見出した。さらに、赤果肉リンゴ果実へのアブシシン酸処理によりMdMYB110a遺伝子の発現上昇とアントシアニン生合成量の増加が見られた。以上の結果よりⅡ型赤果肉リンゴの着色促進にアブシシン酸が関与している可能性が示唆されるとともに、将来的にアブシシン酸に着目した果肉着色促進技術が開発される可能性が示唆された。
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