サクラは散房花序から散形花序の形態多様性を示す.その違いを遺伝子レベルで特徴付けて解明することを目指している. 約150品種のサクラ遺伝資源を用いて,3年以上にわたり開花期の花序形態調査を実施した.複数年分のデータを解析し,花序形態への環境の影響などについて考察した.また,サクラ7品種を選定し,7~10月にかけて当年枝に形成された腋芽内部の様子を経時的に観察し,その花芽への分化過程の観察データを複数年分あわせて考察した.1花芽中に分化する花原基数は開花時の1花房あたりの花数より若干多いことなどが分かった.花序軸や花梗の伸長の程度の違いについては花芽分化時の観察では明らかにならなかった.花序形態は,花芽分化時に誘導される花原基の数,さらに萌芽期以降の花序軸および花梗の伸長程度によって決定されることが見出され,花序軸の伸長程度については環境条件の影響も大きいことが明らかとなった. 花序軸および花梗においてアンチフロリゲンのTFL1遺伝子の発現は検出されず,フロリゲン遺伝子であるFT遺伝子の発現レベルの違いも特に花序形態との関連性は見られなかった.そこで,かずさDNA研究所の協力により,サクラ品種および近縁植物の計138種のRAD-seqを実施し,花数や花序軸長の形質についてGWAS(ゲノムワイド関連解析)によるマーカー探索を試みた.しかしながら,暫定的な解析結果では関連するマーカーを見出せず,継続して再解析を進めている状況にある.また,このような解析を高精度で行うためにはサクラゲノムの研究基盤情報の構築が必要であると考え,‘ソメイヨシノ’のゲノムショットガンシークエンスを実施した.ゲノム解読に向けたデータ蓄積を担うことができた.今後,サクラゲノムの整備によりGWASの精度向上を図り,花序形態に関するDNAマーカーの開発および関連遺伝子の発見に結び付けていく.
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