主要切り花品目の1つであるトルコギキョウを用いて,スクロース分解酵素であるインベルターゼ(INV)およびスクロース合成酵素(SUS)の遺伝子のクローニングおよびそれらの環境応答性の調査を行い,生育・開花および収穫後生理過程におけるスクロース代謝の寄与を明らかにした。 まず,2つの異なる細胞壁INV(CWIN)遺伝子EgCWIN1およびEgCWIN2,1つの液胞INV(VIN)遺伝子EgVIN1および1つの細胞質INV(CIN)遺伝子EgCIN1の全コード配列または部分配列を明らかにするとともに,これらの4つの遺伝子が,生育過程のトルコギキョウの展開葉(ソース器官)および未展開葉(シンク器官)において異なった発現パターンを示すことを見出した。また,蕾の生育停止現象であるブラスチングを引き起こす多施肥条件下において,展開葉および未展開葉の両方でEgCWIN1の転写産物レベルが顕著に上昇すること,未展開葉でのみCWIN活性が上昇傾向にあることが明らかとなり,EgCWIN1が未展開葉のシンク強度上昇をもたらしている可能性が示唆された。現在,生育および蕾の発達過程におけるEgCWIN1の機能の解明を目指し,EgCWIN1過剰発現株の作出を進めている。 次に,2つの異なるSUS遺伝子EgSUS1およびEgSUS2の全コード配列を明らかにするとともに,収穫後の品質保持技術である低酸素包装を施した蕾の花弁において,保管後期(6日目)にEgSUS1の転写産物レベルが上昇することを見出し,低酸素条件に長期間さらされた花弁でのスクロース分解へのSUSの寄与が示唆された。ただし,糖含量および酵素活性の比較から,保管初期(2日目)におけるスクロース分解にはCINの寄与が相対的に大きいことも明らかとなったことから,低酸素包装下の花弁ではスクロース分解経路の切換えが起こっていることも示唆された。
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