研究課題/領域番号 |
26850027
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
平田 久笑 静岡大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (00432196)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 植物病原細菌 / バクテリオファージ / ワサビ / 軟腐病 |
研究実績の概要 |
栽培ワサビから分離された蔬菜類軟腐病菌の溶菌性バクテリオファージをモデルとして、ファージの宿主決定および感染特異性のメカニズム解明を目指している。平成26年度は基礎的データの蓄積として、ファージのゲノム解読と性状解析を行った。 次世代シーケンサーを用いてファージのゲノムDNAを解読した結果、全長と推定される約44kbpの配列から55個のORFが見出された。相同検索により機能が予測された主要な遺伝子の配列を用いて系統解析を行い、このファージが、Podovirus科 phiKMV-like virus属の新種であることを示した。同属に含まれる23種のファージ間には、遺伝子構成の保存性が高い一方、ゲノムサイズは40~45kbpと多様性があることが確認され、比較的大きなサイズのゲノムを有することが示された。またゲノムの両末端にはリピート配列が見出されたが、当該領域においては近縁ファージとの類似性は認められなかった。 ファージの温度耐性を調べたところ、高温域の処理によりファージの溶菌活性が著しく低下することが示され、他の植物病原細菌のファージと比べて高温に弱い性質を有することが明らかとなった。さらに宿主の増殖には影響が認められない27~29度で、宿主細菌と混合して培養した場合、29度においてファージの溶菌活性の低下が認められた。これらの結果から、わずかな温度上昇によりファージの増殖や溶菌が阻害される可能性が示され、このファージが温度の影響を受けやすい性質(高温耐性が弱い性質、感温性)を有することが推測された。 また一方で、宿主細菌側(蔬菜類軟腐病菌)の解析として、ファージの感受性が異なるトランスポゾン変異株についてゲノム解読を行い変異遺伝子を特定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ファージの全ゲノム解読を終えることができ、また温度耐性の試験結果からも、ユニークな特性や性状を明らかにすることができた。 ゲノム情報に基づき、分類学的な位置づけについても示すことができ、蔬菜類軟腐病菌を宿主とする初のPodovirus科 phiKMV-like virus属のファージであることを示した。 Pccへのトランスポゾン導入により、ファージ感受性が異なる変異株をスクリーニングした。これら変異株のうち、特に非宿主に変異した株についてゲノム解読を行い、未同定であった変異部位(破壊された遺伝子)を特定することができた。 作出した変異株の溶菌反応が低下あるいは消失する原因として、ファージの宿主細菌への吸着能の変化、ファージの増殖効率の変化、さらには溶菌酵素の作用の変化を想定し、吸着試験について差が認められる結果が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
ファージの高温耐性が弱い性質(感温性)について、その要因となる因子や特徴を追求するために、まずファージの構造タンパク質および複製関連遺伝子の発現レベルへの影響について検証する。培養時の温度変化も溶菌活性に影響を与えることから、溶菌関連酵素の活性と温度の関係についても比較を行う。 ファージ感受性が異なる蔬菜類軟腐病菌の変異株について、ゲノム解析を継続し、変異部位の特定作業を進める。変異遺伝子が特定された株に関しては、遺伝子の相補実験による機能検証を行い、ファージの増殖と宿主決定に関わる因子を明らかにする。 さらに、宿主細菌のファージ免疫に関わるゲノム領域についても解析を進め、ユニークな特性を持つファージをモデル材料として、宿主決定と感染メカニズムの全容解明を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度末の学会参加に関連して旅費の申請を計画しておりましたが、参加スケジュールの確定が遅くなり使用できないままに残額が発生させることになりました。
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次年度使用額の使用計画 |
次期助成金に加えて、旅費に加えさせていただければ幸いです。計画的な使用を心がけます。
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