研究課題/領域番号 |
26850031
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
高野 俊一郎 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (90725045)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 侵入害虫 / invasive species / 隠蔽種 / cryptic species / 共生細菌 / bacterial symbiont |
研究実績の概要 |
2015年7月に、チモール島でキムネクロナガハムシの発生及びハムシによるココヤシの被害に関する野外調査を昨年に引き続き実施した。島を3つの地域に分けて(西、中央、東)、ココヤシの被害度、ハムシの発生量を調べるとともに、ハムシのサンプリングを行いDNA系統の識別を行った。その結果、中央に分布していたアジア系統が西地域に分布を拡大し、ココヤシに大きな被害を与えていることが明らかになった。また、ココヤシの高さを低・中・高と3つに分類し、それぞれへの被害度を調査したところ、アジア系統が分布する中央及び西地域では高い木も中程の木と同様に加害されていたのに対し、パシフィック系統が分布する東地域では高い木はほとんど加害されていなかった。 室内実験では、両系統のふ化率への共生細菌の影響を調べた。両系統の精巣及び卵巣からDNAを抽出し、16S rDNAの一部を増幅するユニバーサルプライマーを用いPCRした後クローニングし精巣・卵巣に存在する細菌の同定を試みた。また抗生物質テトラサイクリンを与えて細菌を除去した場合のふ化率を調べた。結果、パシフィック系統からは、αプロテオバクテリア綱に属する細菌の配列(既知バクテリアと89%相同)が、アジア系統からはWolbachia 属と99%相同の配列が検出された。パシフィック♂(無処理)×アジア♀(無処理)、パシフィック♂(無処理)×アジア♀(抗生物質処理)ではふ化率が極めて低かったが、パシフィック♂(抗生物質処理)×アジア♀(無処理)では同系統間と同様の高いふ化率を示した。また、特異的プライマーを作成し抗生物質処理したパシフィック系統個体内の細菌の存在を確認したところ、処理によりこの細菌は除去されていた。これらのことからパシフィック♂とアジア♀の細胞質不和合はこのαプロテオバクテリア綱に属する細菌に引き起こされている可能性が高い。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
チモール島での野外調査ついては、おおむね計画通り順調に進んでいる。チモール島において2系統の分布の変遷を調査した。サンプルの採取にあたっては引き続き、植物防疫法や名古屋議定書に配慮し、現地の東チモール国立大学と連携して行っている。また、室内実験においても、パシフィック系統の♂とアジア系統の♀の間で細胞質不和合を引き起こすアルファプロテオバクテリア綱に属する細菌の新系統を発見するなど、おおむね計画通り進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
チモール島にはキムネクロナガハムシ2系統が存在するが、現在のところその分布域は重なっていない。西及び中央地域にはアジア系統が、東地域にはパシフィック系統が存在し、前者の地域ではココヤシへの大きな被害が確認されたが、後者の地域では被害程度は小さかった。しかし、西・中央地域から東地域への物流は何も制限されていないため、今後もチモール島での野外調査を引き続き行い、アジア系統の分布の拡大状況を調査する。 2015年の調査から、東チモールの中央地域での蛹寄生蜂の寄生率が上昇していることが明らかになった。生物的防除資材として利用することを念頭にいれ引き続き基礎的なデータを収集する。 パシフィック♂とアジア♀間で細胞質不和合を引き起こすαプロテオバクテリア綱に属する細菌を発見したことから、今後はこの細菌がハムシに与える影響について調査し、新たな防除法の開発に繋げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
遺伝子解析用の試薬消耗品を購入するため、前倒し支払い請求を行ったが、予定よりも効率的に試薬を使用できたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額については、研究成果をより広く周知するためにオープンアクセスの国際誌に投稿する際の投稿料として使用予定である。
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