近年、世界的規模の物流の増加に伴い侵入害虫が農作物や環境に与える問題も深刻化しているが、新天地における侵入昆虫の害虫化のメカニズムは未知の点が多い。本研究では、遺伝的に異なる2系統が存在するココヤシの侵入害虫キムネクロナガハムシが分布を拡大し大発生するメカニズムをチモール島での野外調査から明らかにした。また、このハムシの生殖を操作する新たな共生細菌を発見し、新たな害虫防除法の開発に取り組んだ。 野外調査では、チモール島においてココヤシの被害度、ハムシの発生量を調べると共にハムシのサンプリングを行いDNA系統を識別した。結果、一方の系統(アジア系統)が島の中央部から西側に分布を拡大し大発生しているが、もう一方の系統(パシフィック系統)は島の東側に分布し分布の拡大や大発生は見られなかった。アジア系統は低木、高木共に加害するのに対し、パシフィック系統は低木のみを加害し、この高木を加害する能力がアジア系統の大発生の要因の一つと考えられた。また、寄主であるココヤシの植生調査から、ハムシはココヤシが連続的に生えている場所では分布を拡大できるが、ほとんどココヤシの無い地域を越えて分布を広げることはできないことが明らかとなった。 アジア系統とパシフィック系統は交尾するが、産まれた卵のふ化率は同系統内の交尾から産まれた卵のふ化率より著しく低い。この要因を明らかにするため、抗生物質処理によりハムシ体内に共生する細菌を除去し交配実験を行った。結果、パシフィック雄(無処理)×アジア雌(無処理)、パシフィック雄(無処理)×アジア雌(抗生物質処理)ではふ化率が極めて低かったが、パシフィック雄(抗生物質処理)×アジア雌(無処理)では同系統間と同様の高いふ化率を示した。DNA解析から、この不和合を引き起こすのはパシフィック雄に感染するαプロテオバクテリア綱に属する新規細菌であることが明らかになった。
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