交信かく乱法の露地栽培作物における安定的な適用条件を解明することを目的とし、1)空間疫学的手法により本法の効果が安定している地域の特徴を検出するとともに、2)宿主が放出する性フェロモンを手がかりとして宿主を探索する天敵類の宿主探索効率に対する、交信かく乱法の影響を評価した。材料として、サトウキビの世界的な重要害虫であるズイムシ類とその天敵類を用いた。 1)については、昨年度までの調査および解析結果から、尾根度が高いほど交信かく乱の効果が低下することが示唆されている。本年度は、一般化線形混合モデルを用いて、調査した全ての要因を組み込んだ詳細な解析を行うとともに、AICによるモデル選択を行った。その結果、尾根地形になるほど効果が減少すること、交信かく乱剤の処理面積が広いほど効果が高くなること、が示された。 2)について、本年度は、昨年度までの実験で絞り込んだ天敵(タマゴコバチの1種等)を材料とした室内および野外実験を行った。室内実験の結果、合成性フェロモンが充満した室内では、同種の寄主探索能力が低下する可能性を示唆する結果が得られた。一方、野外実験では、交信かく乱が同種の寄主探索能力に及ぼす影響は検出されなかった。従って、交信かく乱の実施は同天敵の寄主探索能力に影響を及ぼしている可能性があるが、その影響は限定的であると考えられた。 交信かく乱法は、環境保全型の総合防除体系の基盤となる技術であるが、野外圃場では効果が安定しない事例が散見される。本研究により、効果が不安定になる理由として施用地域の地形の影響が考えられ、特に尾根地形では効果が低くなることが統計的に示された。今後は、天敵類に対する影響評価を継続するとともに、地形に応じて合成性フェロモン剤の処理量を変化させること等により、対象地域全体における交信かく乱法の効果を最大化できる同剤の配置法を明らかにする必要があると考えられた。
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