東京電力福島第一原子力発電所から拡散した放射性セシウムによる農作物汚染への懸念は未だ深刻な状況にある。カリウムの施用により玄米への放射性セシウムの移行を抑制できることが明らかとなり、水稲の生産現場では有効な対策技術としてカリウムの施用が実施されている。しかしながら、カリウムによるセシウム吸収抑制の生理学的メカニズムの詳細は不明であり、指導現場においては、経験則に基づき必要なカリウム施用量の目安を提示するにとどまっている。研究代表者らは、効率的なカリウム施用方法の確立に資するために、カリウムとセシウムがともに同じ輸送体を介してイネに取り込まれることに着目して、セシウム吸収にカリウムが及ぼす作用を定量的に表すモデル式を構築した。本研究は、モデル式を構成するパラメータのうちカリウムおよびセシウムに対する最大吸収速度と親和性の定量、および、モデル式構築に際して組み込んだ仮説「低カリウム条件においてカリウム輸送体の発現量の増加によりカリウム吸収速度が増加する」の検証を目的として行った。昨年度の実験により低カリウム条件によりカリウムおよびセシウム吸収速度が増加することが示された。本年度は、カリウムおよびセシウム吸収について差異があるとされている2品種を供試して、水稲の根についてカリウムへの親和性と最大吸収速度を測定する実験を行った。水耕栽培で育成した7葉期の水稲を供試して、濃度0.25~10ppmのカリウム溶液におけるカリウム吸収速度を測定し、測定値と溶液カリウム濃度から親和性と最大吸収速度を算出した。両形質について品種間差異が認められ、これら形質がカリウムおよびセシウム吸収に関する品種間差異に関与している可能性が考えられた。
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