研究課題/領域番号 |
26850042
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
日高 將文 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (00584848)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | タンパク質工学 / 結晶構造解析 / バイオセンサー |
研究実績の概要 |
本研究は、根粒菌の脱窒関連遺伝子発現制御に関わるNasS、NasTタンパク質について、(1)X線結晶構造解析によって立体構造を決定し、分子レベルにおける遺伝子発現制御メカニズムの基盤を獲得することと、(2)NasS、NasTを応用する手法を開発すること、を目的としている。NasSとNasTは、硝酸塩非存在下で複合体を形成している。硝酸塩存在下では、硝酸塩がNasSと結合することでNasS-NasTは解離し、遊離したNasTがmRNAと結合することでタンパク質の翻訳が促進される。 平成27年度は、前年度に結晶を獲得したNasSの構造解析を進める一方、NasTについても引き続き結晶獲得を目指した研究を行った。しかしながら、NasTの結晶は獲得できず、また予定していた放射光施設・つくば高エネルギー加速器研究機構・フォトンファクトリーにおける実験機会が得られなかったため、構造解析について大きな研究の進捗は得られなかった。 一方、硝酸塩の存在・非存在条件によるNasS-NasTの解離・非解離の変化を応用することができないかと考え、NasS、NasTを利用した硝酸塩センサーの開発に取り組んだ。このセンサーの原理は、NasS、NasTに、それぞれ蛍光タンパク質YFP(Yellow Fluorescent Protein)、CFP(Cyan Fluorescent Protein)を付加したタンパク質を作製し、NasS-NasTの分子間距離を蛍光タンパク質の蛍光共鳴エネルギー移動(FRET: Fluorescence Resonance Energy Transfer)のスペクトル変化として捉えるものである。この原理に基づいた硝酸塩センサーシステム・sNOOOpy(sensor for NO3/NO2 in physiology)を開発し、発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、NasS、NasTの結晶構造解析と応用開発を目指している。 結晶構造解析については、NasSとNasTについて(1)NasS、(2)NasT、(3)NasS+硝酸塩、(4)NasT+RNA、(5)NasS+NasT、の5種類について結晶構造を明らかにすることを目的としている。このうち、(1)については平成26年度までに決定しており、本年度は(2)~(5)について構造解析を試みた。タンパク質発現条件、結晶化条件を検討したが、X線回折実験を行うのに十分な質の結晶を獲得することができなかった。前年度の成果と比較すると、結晶構造解析については停滞していると言わざるを得ない。 一方、NasS、NasTの応用開発については、硝酸塩の存在・非存在によるNasS-NasTの解離・非解離を利用した硝酸塩センサーを開発した。この硝酸塩センサーシステム・sNOOOpy(sensor for NO3/NO2 in physiology)は、溶液中の硝酸塩、亜硝酸塩の濃度変化を蛍光スペクトルの変化として検出すること検出することができる。硝酸塩・亜硝酸塩に高い特異性を示しており、生体サンプルにおける硝酸塩・亜硝酸塩定量化に利用することが期待される。また、sNOOOpyを哺乳類細胞に発現することで、哺乳類細胞内の硝酸塩・亜硝酸塩濃度変化をに成功した。これらの結果を日本農芸化学会年会で発表し、また学術誌Journal of Biological Chemistryで発表した。
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今後の研究の推進方策 |
結晶構造解析を行うためには、放射光施設・つくば高エネルギー研究所・フォトンファクトリー(PF)におけるX線照射実験が不可欠であるが、本事業期間中におけるPFの運転停止(2014年)、および共同利用実験課題の失効により十分な実験を確保することができなかったことを理由として事業期間の延長が認められたため、平成28年度も研究を継続する。 NasS、NasTの結晶構造解析については、タンパク質の発現・精製系を見直し、引き続き結晶化および構造解析に供する。 NasS、NasTの応用研究については、sNOOOpyを発表した一方で、実用的な利用のためには更なる改良が必要であると認識している。タンパク質の安定性、硝酸・亜硝酸塩に対する感度の向上により、様々な分野における硝酸塩・亜硝酸塩濃度変化の検出に利用することができると考えている。そのため、タンパク質工学的手法を用いてsNOOOpyシステムの改良を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進行の都合という点で、NasS、NasTについてX線回折実験に供するのに十分な質の結晶を獲得することができなかったため。また、研究実施の都合と言う点で、高エネルギー加速器研究機構・フォトンファクトリーにおける共同利用実験の失効によって実験機会を喪失したため。また、本年度の研究の中心が、結晶化条件探索よりも機器、試薬を必要としないセンサータンパク質開発へとシフトしたため。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでのNasS、NasTの結晶化条件の探索では、検討すべき項目が十分ではなかった可能性がある。平成28年度は、更なるスクリーニングキットの導入や条件探索のための器具、機器を導入し、研究を進める。 NasS、NasTの応用開発においては、実用化に向けた改良を試みる。改良は初期開発よりも検討すべき条件が多くなるため、新規の試薬、機器、器具を導入する必要が生じると考えている。
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