研究実績の概要 |
産業上重要なCorynebacterium glutamicum(コリネ菌)から脂肪酸分泌生産株を取得し,同変異株の解析を進めてきた。その過程で,脂肪酸生合成遺伝子群のリプレッサーであるFasRの機能喪失が,オレイン酸を主体とする長鎖脂肪酸の高生産と分泌を同時に引き起こすことを見出した(Takeno et al., 2013. Appl. Environ. Microbiol., 79: 6776-6783)。我々はこの発見に基づいて,脂肪酸の分解代謝系であるβ-酸化経路を元来もっていないコリネ菌は,過剰合成された脂肪酸を菌体外に排出する何らかの仕組みを備えることで,細胞内の過剰蓄積を免れているものと仮説した。本研究課題はコリネ菌の長鎖脂肪酸排出輸送体を同定することを目的とする。本研究を通して脂肪酸の分泌生産に輸送体の関与を実証できれば,排出機能の育種ターゲットとしての重要性を提案できる。平成26年度は,長鎖脂肪酸排出輸送体遺伝子の特定を試みた。コリネ菌ゲノムを対象とした網羅的なin silico解析の末,合計26種の遺伝子を候補遺伝子として抽出することができた。興味深いことに,いずれの候補遺伝子もその上流域にFasRの結合モチーフ配列を有していなかった。候補遺伝子を対象に,野生株―分泌株間での比較発現解析を行ったところ,うち4遺伝子については分泌株で有意に発現量が上昇していることが判明した。目的とする排出輸送体遺伝子はこれら4遺伝子に含まれているものと考えられる。また,これらの遺伝子がFasRの支配下遺伝子でないことは,FasRの機能喪失に起因して起こる細胞内の脂肪酸過剰蓄積によって誘導される遺伝子である可能性を示唆する結果である。
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