研究課題/領域番号 |
26850055
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
梶川 揚申 東京農業大学, 応用生物科学部, 助教 (30646972)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | べん毛 / 乳酸菌 / 運動性 / Lactobacillus |
研究実績の概要 |
初年度は運動性を示す有べん毛Lactobacillus属細菌の中から適当なものを選抜し,実験モデルを検討すること,変異株を作製することが主な課題であった. 1.菌株の取得と選抜について: 菌株保存機関のLactobacillus agilisを4株,横浜市内の動物園などから運動性乳酸菌を4株分離した.分離株が予想外に少なく,モデルとして最適なげっ歯類由来株は分離されなかった.一方,運動性が不明瞭であったL. agilis JCM1048(トリ腸管由来)から,継代培養の過程で旺盛な運動性を示す株(BKN88)が取得された.BKN88は形質転換が可能であり,最近になって同種のべん毛関連遺伝子群がGenBankに公開されたことから,以降の検討に用いた. 2.経口投与したL. agilis BKN88のマウス腸管への定着または残存性の検討: BKN88を培養し,マウス胃内へ投与したが,2日程度で大部分が排泄された.そこで,BKN88にストレプトマイシン耐性を付与し,抗生物質を含む飲水を与えながらマウスへ複数回の投与したところ,抗生物質依存的な定着が観察された.これはマウス腸管定着モデルとして有望な結果であった. 3.運動性欠損変異株の作製: BKN88を元に,べん毛を保持するが,運動性は失った変異株の作製が行われた.べん毛の回転モーターに相当するタンパク質をコードする遺伝子motBを標的とし,特定のアミノ酸置換を導入したところ,運動性を持たない菌株(motB D23A)が取得された. 4.フラジェリンタンパク質の同定: フラジェリン遺伝子への変異導入にあたり,BKN88の染色体上に2コピー存在するフラジェリン遺伝子の発現を解析する必要が生じた.転写産物,タンパク質の両方について調べたところ,BKN88のべん毛繊維は両方のフラジェリンにより構成されることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
取得した菌株が少なかったこと,形質転換可能な菌株がLactobacillus agilisだけであったことから,菌株のスクリーニングについては当初の予定通りに進まなかった.しかし,旺盛な運動性を示すL. agilis BKN88株が取得できたこと,BKN88の形質転換が可能であったこと,べん毛関連遺伝子群の遺伝子配列公開があったことにより,供試菌株として妥当なものを選抜することができたと考えている.また,抗生物質を利用したマウス腸管定着モデルの検討において有望な結果が得られた.さらなる検討を要するものの,今後の展開が期待できる成果であると言える.また,変異導入による運動性欠失変異株も取得でき,べん毛の有無や運動性の確認等も既に終えているため,次の実験段階へ進めることができる.予定には無かったものの,フラジェリン遺伝子発現の検討においては新たな知見が得られたことから,追加の実験結果と共に学会や論文で発表したいと考えている.しかし,この遺伝子発現解析を事前に行う必要があったため,フラジェリン遺伝子への変異導入は遅れており,実験の一部変更も踏まえて再検討する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度研究計画に基づき,変異株の作製および評価,菌体の蛍光標識,培養細胞を用いた試験,走化性を調べる実験を進める. 1.変異株の作製および評価: 当初の予定にあったフラジェリン遺伝子への変異導入については,対象となる遺伝子が2コピー存在することとなり,それぞれの相同性が非常に高いことから,変異株の取得は難航する可能性がある.計画書にも記載したフラジェリンそのものの欠損も同時に検討していく. 2.菌体の蛍光標識: 組換えおよび非組換えによる標識が計画されている.まずは蛍光タンパク質mTFP1遺伝子の導入による組換え体作製を進めていく.導入が困難であった場合,別の蛍光タンパク質や非組換えによる標識を検討する.また,蛍光標識による運動性への影響も評価する. 3.培養細胞を用いた試験: 腸管上皮由来のHT-29細胞は粘液を分泌する能力をもつため,運動性乳酸菌の粘液上での挙動を評価できると考えられる.HT-29細胞とL. agilis BKN88および変異株を蛍光標識した後,共培養し,経時的な菌体の局在を観察する.また,菌体のHT-29細胞への付着性や免疫応答についても検討する. 4.走化性: 運動性微生物の大部分は走化性を示し,特定の物質に対し誘引や忌避を行う.L. agilisも走化性に関わる遺伝子群を有することから,何らかの分子に応答すると思われる.動物腸管に存在すると考えられる物質(胆汁,ディフェンシン,糖など)について,走化性を定性的・定量的に解析する.
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次年度使用額が生じた理由 |
分離菌株が少なかったことでスクリーニングのコストが掛からなかったことが主な理由であると思われる.
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度から継続すべき実験として,マウスモデルの検討や残りの欠損株作製がある.これらの経費は次年度予算に計上されていないため,これらの実験に必要な物品の購入に充てる.
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