最終年度においては、ノトバイオートを用いて有べん毛Lactobacillus属細菌がもつ運動性の、腸管定着への関与について調べた。その結果、運動性を示す野生株が回腸粘膜深部に達している、あるいは粘膜層へ強固に接着している一方、運動性を失った変異株においてはその能力が弱いことが示唆された。この結果より、運動性は宿主腸管への定着性に影響するものと考えられた。 フラジェリンの免疫学的特性の解析においては、昨年度までに明らかにされたLactobacillus agilisがもつべん毛のTLR5低応答性が何に起因するかを検討した。結果として、L. agilisのべん毛は病原体由来のべん毛において保存されているアミノ酸残基のうち3ヶ所のミスマッチがみられ、これらのアミノ酸残基を病原体由来のものと一致させることで、TLR5を介した炎症応答が強化されることが示された。 初年度より継続していた動物糞便からの運動性Lactobacillus属細菌の分離について、効率化を試みた。運動性Lactobacillus属細菌において保存性の高いfliG遺伝子を標的としたプライマーを作製し、動物糞便から抽出したDNAに対してその検出を試みた。併せて軟寒天培地による培養を行い、運動性細菌の集積部位からの単離を試みた。以上により、多くのL. agilisが分離され、同菌種が比較的広い宿主域を持つことも明らかとなった。 3年間の研究結果から本課題を総括すると、有べん毛Lactobacillus属細菌は宿主動物腸管において運動性を発揮することで粘膜深部へ達し、定着性を向上させることができるものと考えられる。その一方で、べん毛構成遺伝子のフラジェリンの免疫学的活性は弱く、過剰な炎症応答を誘導することは無いと考えられた。以上の特性により、運動性Lactobacillus属細菌は宿主への定着にべん毛による運動性を活用しつつ、過剰な炎症を誘導することなく宿主との共生関係を維持しているものと結論付けられた。
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