本研究では、糸状菌タラロマイセス・セルロリティカス(旧称アクレモニウム・セルロリティカス)が生産する糖化酵素群について、その遺伝子発現機構の解析を試みた。 昨年度末より、研究代表者が海外の大学へ1年間研究留学へ出かけていたため、最終年度は研究成果の公表を中心に、科研費活動を行った。具体的には、昨年度までに得られた研究データをまとめ、海外英文誌へ論文を投稿した。現在、そのリバイス対応を行っており、近日中に国際英文誌へ掲載される予定である。さらに、海外留学中の留学先でのミーティングや、帰国後の国内の学会といった複数の会議で科研費成果を発表した。 本研究の全期間を通じて得られた成果の概要は、以下の通りである。(1)他の糸状菌で糖化酵素遺伝子を制御することが知られている転写因子の解析:tacA遺伝子やtctA遺伝子、Hap complex遺伝子などが本菌の糖化酵素遺伝子の発現に寄与することを見出した。これにより、新たに複数の転写因子が本菌の糖化酵素の発現に寄与することが明らかとなった。これらの転写因子を改良することにより、本菌の酵素生産性の向上が期待される。(2)新規な転写因子を検索:新規な転写因子の単離には至らなかったが、その過程で、相同組み換え能が飛躍的に向上した株(YDLP株)の取得に成功した。これは、本菌の遺伝子組み換え技術が飛躍的に進歩したことを意味し、今後の様々な解析に応用されると期待される。さらに、YDLP株を用いた解析により、糖化酵素遺伝子の発現に重要なプロモーター領域を特定した。今後、本菌の糖化酵素遺伝子の発現メカニズムが更に明らかとなることが期待される。
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