研究課題/領域番号 |
26850060
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
老沼 研一 筑波大学, 生命環境系, 助教 (20635619)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 芳香族ポリマ- / 加水分解酵素 / Aspergillus niger |
研究実績の概要 |
本研究では、4-ヒドロキシ桂皮酸(4HCA)と3,4-ジヒドロキシ桂皮酸(DHCA)から成る新規な芳香族ポリエステルpoly(4HCA-co-DHCA)(4CDP)をモデル基質として、(これまでに発見例のない)芳香族ポリマー分解菌および酵素を探索し、その分解機構を解明することを目的とする。前年度までの予備的な実験により、Aspergillus niger由来の市販のペクチナーゼ試薬が、4CDP分解活性(ポリマーからモノマーを遊離させる活性)を有することを発見した。ただし、本製品は多くのタンパク質を不純物として含んでおり、この活性がペクチナーゼ自体によるものかどうかは不明であった。そこで、まず本試薬に含まれる酵素の同定と解析に取り組んだ。 硫安分画と4種のカラムクロマトグラフィーにより、ペクチナーゼ試薬に含まれる目的の酵素を比活性で42倍にまで精製することに成功した。SDS-PAGEで現れた主要なバンドをMALDI-TOF MSで解析したところ、(芳香族エステラーゼ等に代表される)SGNH hydrolaseファミリーに属する機能未知タンパク質(EHA22274)と一致するアミノ酸配列が検出された。一方、A. niger ATCC 1015株を炭素源の異なる様々な培地で培養し、4CDP分解活性およびEHA22274の遺伝子の転写レベルを検討したところ、培養液への4CDPの添加により、酵素活性と遺伝子の発現が同調して誘導されることが判明した。これらのことから、A. nigerが産生する4CDP分解酵素は、EHA22274であるものと推察した。今後、本タンパク質と遺伝子の機能を詳細に解析することにより、芳香族ポリマーの生分解機構に関する多くの知見が得られると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は、申請者らが土壌から単離した4CDP分解菌Myrothecium sp. T09や、市販のペクチナーゼ試薬からの4CDP分解酵素の精製と同定を試みる計画であったが、上述の通り、後者の試薬から目的の酵素を精製・同定することに成功した。これにより、当初の計画通り、芳香族ポリマー分解酵素の反応機構の解析、リサイクルシステムの確立に向けた4CDPの分解性・回収効率の検討、既存の難生分解性芳香族ポリマーを対象とした基礎・応用研究に取り組む準備が整った。
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今後の研究の推進方策 |
1. 芳香族ポリマー分解酵素の反応機構の解析: 平成26年度にA. niger由来のペクチナーゼ試薬から精製・同定した4CDP分解酵素(EHA22274)に対し、酵素学的な検討を行い、至適反応温度・pH、Km、Vmaxなどの諸性質を明らかにする。また、分子量の小さいモデル基質や基質類似化合物を用いて、基質認識や切断様式に関する知見を得る。更に、既知のSGNH hydrolaseの活性アミノ酸残基に対応する残基をアラニンに置換し、機能を解析することで、既知酵素との反応機構の共通点を探る。これら一連の実験を通して、4CDP分解酵素の反応機構の解明を目指す。 2. リサイクルシステムの確立に向けた4CDPの分解性・回収効率の検討: 発見したEHA22274の遺伝子を、Aspergillus oryzaeの分泌発現システムに組込むことで、4CDP分解菌を作出する。本菌を4CDPとともに培養し、ポリマーの分解速度や、培養液からのモノマーの回収率等を検討する。また、精製酵素や、分解菌の培養上清を用いた分解・回収条件の検討も行う。これらの結果から、最適なリサイクル条件を決定し、実際に研究室スケールで試験的なシステムを構築する。 3. 既存の難生分解性芳香族ポリマーを対象とした基礎・応用研究: EHA22274が、poly(ethylene terephthalate)等の他の難生分解性芳香族ポリマーに作用するかを検討する。もし活性が確認された場合は、上記1と同様な検討を行い、反応機構に関する情報を得る。これと並行して、相同性を有する既知酵素の構造情報等に基づく部位特異的変異や、エラープローンPCRによるランダムな変異処理を施し、当該ポリマーの分解に特化した高性能酵素の創出を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は、タンパク質精製、菌の培養、遺伝学的解析、酵素学的実験等を実施するため、多数の精製/分析用カラム、培養/生化学用試薬、分子生物学用のキット類を使用したが、その多くは申請者が所属する研究室の備品を用いることで代用可能だったため、執行額を計画よりも低く抑えることができた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度より、本研究の代表者は研究機関を変更することとなったが、現在所属する研究室では、タンパク質精製用カラムや酵素学的実験を行うための分析用カラムをほとんど保有していないため、前年度分の未使用額はこれらの物品の購入費に充てる。例えば、以下のような物品の購入を計画している: Mono Q 5/50 GL (195,000円)、Superdex 200 Increase 10/300 GL (259,000円)(以上、タンパク質精製用カラム; GE Healthcare社製)、LiChroCART 150-4,6 Purospher STAR RP-18e (48,900円)、TSKgel G3000HHR 7.8 x 300 (270,000円)(以上、分析用カラム; Merck Millipore社またはTOSOH社製)。その他の物品の購入に関しては、申請時の購入計画に従う。
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