研究課題
本研究課題は1)脂肪滴に対するオートファジーの分子機構の解明と、2)液胞由来脂質リサイクリング経路の解明を主要な目的として始められた。(1)に関して、本年度研究から、出芽酵母において炭素源がグルコースからエタノールへと切り替わる(Diauxic shift)際に、脂肪滴が液胞膜の変形(陥入)により液胞内へと取り込まれる、ミクロオートファジーが誘導されているとが、電子顕微鏡観察・蛍光顕微鏡観察により強く示唆された。このミクロオートファジーにより、液胞膜上に局在するタンパク質自身も液胞内部へ輸送され、液胞内タンパク質分解酵素による分解を受けると想定されたので、2つの液胞膜タンパク質に蛍光タンパク質を付加した融合タンパク質を発現させ、その液胞内分解の有無を生化学的に検出するアッセイ系の構築に成功した。このアッセイ系を用いて、上記の培養条件で、たしかにミクロオートファジーが誘導されることが確認できた。(2)に関しては、液胞内に局在する推定脂質分解酵素であるAtg15の欠損株における脂肪滴動態についての解明が進んだ。すなわち、出芽酵母を最小培地で長期間(2-4日)培養した場合に、Atg15が欠損した出芽酵母の変異株では、野生株と比較して脂肪滴の量が著しく減少することを見いだした。この減少は、他のオートファゴソーム形成に必要なAtgタンパク質の欠損株では見られなかった。さらに、この減少は脂肪滴合成に必要な酵素群の変化ではなく、脂肪滴内部の中性脂質分解(リポリシス)に機能する酵素群の量や局在変化に起因することを見いだした。
2: おおむね順調に進展している
(1)脂肪滴に対するオートファジーの分子機構の解明に関しては、本オートファジー過程の形態学的解析結果を検証し、さらにその分子機構を明らかにするための有力な解析手法として、生化学的な解析系を構築することができた点が大きな進展である。構築された解析系を、これまでの解析手法と組み合わせて利用することにより、脂肪滴動態に寄与するオートファジーの分子機構の詳細が解明されることが期待される。(2)液胞由来脂質リサイクリング経路の解明に関しても、本年度は大きな進展が見られた。従来、脂肪滴内部の中性脂質分解(リポリシス)とオートファジーとの関連について詳細に解析した研究はほとんどなかった。本研究はその関連の解明研究の嚆矢となっているばかりでなく、脂質の細胞内循環に果たすオートファジーの重要性を明確にしたという点でも重要な成果が得られたと考えている。
(1)脂肪滴に対するオートファジーの分子機構の解明に関しては構築した生化学的な解析系を出芽酵母の多数の遺伝子破壊株に対して適用することで、ミクロオートファジーによる脂肪滴分解に関与する因子の特定を行う予定である。さらに特定された因子の破壊株における脂肪滴量の変化の有無を調べるために、蛍光色素による脂肪滴の可視化・蛍光顕微鏡観察や脂肪滴内中性脂質の主要成分であるトリアシルグリセロールの定量を行う予定である。(2)液胞由来脂質リサイクリング経路の解明に関しては、Atg15の欠損に伴うリポリシス酵素の活性や局在を左右する分子メカニズムについて明らかにすることを企図している。また、液胞からの脂質リサイクリングが停止すると脂肪滴量が減少する培養条件が同定されたことから、本条件で脂肪滴量が減少する他の遺伝子破壊株の探索、特に膜貫通型のトランスポーター分子の欠損株の脂肪滴量を解析し、脂質リサイクリングに機能する新たな因子を同定する(3)以上の結果をふまえ、グリセロールを効率的に資化できるメタノール資化性酵母において、同定した脂肪滴動態関連因子の欠損株における脂肪滴量を測定し、脂質生産の向上が見られるか調べる予定である。
本研究において、遺伝子のクローニングに必要な試薬他の消耗品にかける費用を可能な限り節減することに努めたため、予定より物品費が大幅に減少することとなった。また、本年度は海外研究発表の機会がなく、旅費等の費用の減少につながった。
本年度は、本研究課題の成果を積極的に公開する予定であり、海外での研究発表、および論文投稿に当該金額を活用していく予定である。また、研究の迅速化のための適切な機器・試薬購入のためにも当該金額を活用する予定である。
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Journal of Cell Science
巻: 127 ページ: 3184-3196
10.1242/​jcs.153254
http://www.seigyo.kais.kyoto-u.ac.jp/publications/