最終年度はエクジソン生合成経路のブラックボックスの解明に向け、ブラックボックス内の反応に関わる酵素であるNm-gの変異個体から見出した未知物質Xの構造解析、Nm-g変異個体の前胸腺における遺伝子発現解析と基質変換実験、新規エクジソン生合成酵素の探索、ならびに機能未知のエクジソン生合成酵素であるSpookのノックアウトカイコ作出を行った。 昨年度Nm-g変異個体の体液から精製を終えた未知物質Xを用いて、NMRによる構造解析を行った。これまでに取得した類縁化合物や既知エクジソン中間体の合成品のNMRスペクトルとの比較により、未知物質Xの構造を決定することが出来、Nm-g機能の解明に繋がる重要な知見を得た。また、Nm-g変異個体の前胸腺において既知エクジソン生合成酵素遺伝子が発現しており酵素活性を有すること、ならびにNm-g変異系統のカイコ前胸腺を用いた標識体コレステロールの変換実験により未知物質Xはエクジソンと同じくコレステロールを原料に前胸腺で合成された物質であることがわかった。加えて、Nm-gとSpook以外の酵素がブラックボックス内の反応に関わる可能性についても検討を行い、次世代シーケンサーを用いたカイコ前胸腺トランスクリプトーム解析により新規のエクジソン生合成酵素候補遺伝子を見出すことに成功した。この候補遺伝子の前胸腺における遺伝子発現パターンは体液中エクジステロイド量の変化と相関が見られ、エクジソン生合成への関与が示唆される。また、変異系統が存在しないSpookについてはゲノム編集法を用いてノックアウトカイコを作出した。これまでに複数の変異導入個体が確認出来ており、今後の解析により新たな知見が得られることが期待される。 本研究によりこれまで不明であったエクジソン生合成経路のブラックボックスの一部が明らかとなり、全容解明に向けた基盤を構築することが出来た。
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