研究課題/領域番号 |
26850071
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
上野 琴巳 神戸大学, (連合)農学研究科(研究院), 学術研究員 (40582028)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ストライガ / アブシジン酸 / 水分収奪 / ソルガム / 気孔閉鎖 |
研究実績の概要 |
根寄生雑草ストライガは、ソルガムやイネの根に寄生して宿主植物から養水分を収奪するため、寄生された植物は生育が制限されて穀物の収量が激減する。ストライガは宿主植物に比べて気孔が閉鎖しにくく、またストライガに寄生された植物では気孔の開口度が小さくなっていることから、蒸散流を宿主からストライガの方に偏らせることで、水分だけでなく養分を収奪していると考えられる。気孔の閉鎖を調整する植物ホルモンとしてはアブシジン酸(ABA)が知られている。そこでストライガのABA内生量を測定したところ、宿主植物であるソルガムの約10倍蓄積していた。この多量のABAが宿主植物に輸送され、その結果宿主の気孔閉鎖が促進されているのではないかと予想し、ライゾトロンでソルガムに寄生して生育しているストライガの葉に重水素で標識したABAの水溶液を塗布した。すると重水素標識されたABAがソルガムの根だけでなく葉からも検出された。しかし検出された重水素標識ABAは定量できる量ではなかったことから、宿主植物体内で代謝されている可能性が考えられた。またストライガの葉全体に塗布した時より1点にスポットした時の方がソルガムの根から検出された重水素標識ABAが多かったことから、ストライガにとっても高濃度のABAはストレスになる場合があると推察された。最近の知見では、宿主植物の根で作られたABAは一部が地上部へ移動するのみで、別のシグナルが葉の気孔閉鎖を誘導していると考えられている。そのことを踏まえると根に寄生しているストライガは積極的に宿主植物へABAを送り込む必要はなく、接触点付近のABA濃度を高める程度でも十分に蒸散流をストライガ側へ偏らせることができるのではないかと思われた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ストライガ及び宿主植物のABA含量はこれまで圃場で育てられた植物体でのみ測定されていたが、実験室レベルで研究が進められるライゾトロンの系でもABA含量を測定することができるようになっただけでなく、ストライガが宿主植物に比べて十数倍のABAを蓄積していることが確認できた。またストライガにおけるABAの蓄積は発芽後すぐから始まっていた。一般的な植物のABA含量は、発芽時および生長初期段階には低い。このことから、ストライガにおけるABAの機能は、他の植物における機能とは異なっていることが予想される。しかし現時点ではストライガのABA含量にばらつきがあり、その原因が特定されていないためデータを学会等で公表するに至っていない。ストライガから宿主植物へのABAの移動は、定量化できていないものの確認することはできた。ABAは地上部へ積極的に輸送される化合物ではないということ、また重水素標識ABAは植物体内で代謝されることを踏まえると、投与する化合物、投与方法、そして植物サンプルの調製法など、データ公表には試験系を改善する必要はある。その一方でABA関連遺伝子の探索に向け、ポロメーターを用いて蒸散速度を測定する方法や、気孔の開口度をレプリカ法で測定する実験系を確立することができた。ABA水溶液をストライガ及び宿主植物にスプレーすると、気孔の開口度が減少し、それに伴い蒸散速度も低下することが確認されている。またストライガからRNAを抽出する実験を既に始めており、ストライガのABA関連遺伝子を同定するという来年度に向けた研究の準備を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で本研究の一番の問題となっていることは、ストライガにおける内生ABA量の個体差(部位別の差)が大きいことである。正確なデータが得られるようになるためにも、1) ライゾトロンによる栽培系、栽培時間を見直す、2) 植物のサンプリング方法を工夫する、が考えられる。1) に関しては、寄生関係成立時の瞬間が確認しづらく、蒸散速度を測定しやすい大きさまで育つということが測定時期を決定しているため、栽培日数や葉の長さなどの具体的な数字に欠けている。そのため、接種から何日後などと、大きさではなく栽培日数で植物をサンプリングし、内生ABA量をLC-MSを用いて測定していく。またストライガの部位別(地下部、地上部の葉、地上部の茎)でABA含量に違いがあるのか確認する必要がある。部位に大きな差がないにもかかわらず、個体差が大きいのであれば、複数の個体を合わせたものをひとつのサンプルとし、常に平均化しながら内生ABA量だけでなくABA関連遺伝子の発現量を精査していく必要がある。その一方で、ABA溶液をスプレーするとそれに応じて気孔が閉鎖するという傾向は確認されているので、その方法を用いてストライガをABA処理し、EST解析で明らかになっているストライガのABA関連遺伝子(生合成、代謝酵素)の発現量をリアルタイムPCRで確認する。またストライガではABAを蓄積する傾向があり、この蓄積が生存の上で必要なのかどうかを確認するために、ストライガの葉にABAの生合成阻害剤であるフルリドンを塗布し、植物の形態変化について観察する。
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