分子の多量体化とそれに伴う多点結合の形成により結合力が増強される効果を「クラスター効果」と呼ぶ。本効果を二次代謝天然物に応用し、有用物質開発研究を行っている。 当初、本研究の題材に用いる天然物としてイオノフォア抗菌物質ポリナクチンを想定していいたが、研究協力者からクラスター効果による活性の増強がより一層期待出来る抗真菌・抗HIV活性物質天然物プラジマイシン(PRM)の提供が得られたので、PRMを中心に利用して研究を進めた。 昨年度までに、PRMの活性発現機構と金ナノ粒子の特徴に着目することで、糖鎖中のマンノース残基を検出可能なケモセンサーの開発に成功した。さらに、このPRM担持金ナノ粒子(PRM-AuNPs)はPRMそのもの(解離定数:96マイクロM)と比較して結合力が10倍向上することを明らかにした(解離定数:10マイクロM)。 今年度は、これらの結果を踏まえてPRM-AuNPsの生物活性試験を中心に実施した。カビおよび酵母2種類ずつについて抗菌活性試験を行ったところ、カビと酵母それぞれ1種類ずつに対してPRM-AuNPsは抗菌活性を示した。しかしながら、期待に反してPRMそのものと比較して4分の1程度の抗菌活性しか示さなかった。結合力が約10倍になったにも関わらず、抗菌活性は4分の1程度だった原因として、凝集とそれに伴う粒径の増大を考えている。培地に添加する際に50 μg/ml のPRM-AuNPs溶液を調整したが、その際に凝集に伴う粒径の増大が起こり、菌の細胞壁を透過しにくくなっている可能性が示唆された。しかしながら、クラスター化したPRM-AuNPsが抗菌活性を示したことは大きな知見と考えている。今後は、金ナノ粒子でなく凝集性の低いデンドリマーを利用してクラスター化を行うことを計画している。 また、新たなクラスター化の題材とするべくBU4664Lの全合成も行った。
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