研究課題/領域番号 |
26850077
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
落合 秋人 新潟大学, 自然科学系, 助教 (40588266)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | α-アミラーゼ / ディフェンシン / イネ / 生理活性 / 免疫亢進 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、イネ由来のα-アミラーゼ(AmyI-1)が細菌内毒素(LPSやLTA)と結合し、抗炎症などのヒト生体防御機能に関与することを過去に見出している。また、熱安定性が極めて高く、抗菌活性などの多機能性が知られているディフェンシン様のタンパク質をイネゲノムから見出した。前年度までに、X線結晶構造解析によりAmyI-IにおけるLPSおよびLTAの結合に関わる部位を推定し、大腸菌発現系を使用して2種類のディフェンシンの調製を進めてきた。本年度は、変異体を用いた解析により内毒素との結合に関わるAmyI-1のアミノ酸残基の特定を進めた。また、これらのディフェンシンについて、様々なヒト病原菌に対する抗菌スペクトルを明らかにし、熱安定性や血清に対する安定性などを評価した。具体的な研究成果を以下に示す。 【AmyI-1の細菌内毒素に対する分子認識機構の解明】 AmyI-1とデンプンのアナログ基質との複合体の立体構造をX線結晶構造解析により決定した。見出した糖鎖結合部位の多くが、前年度までに明らかにしたLPSおよびLTAの結合部位と一致していたため、LPSおよびLTAの構造に含まれる糖鎖領域がAmyI-1との結合に関与することが強く示唆された。これら糖鎖結合部位周辺のアミノ酸残基について部位特異的変異を導入した結果、LPSはAmyI-1分子表面の2つの糖鎖結合部位に結合し、LTAはAmyI-1の糖鎖結合部位に加えて活性中心部位にも結合することを明らかにした。 【イネディフェンシンの抗菌スペクトルの解析と諸性質の決定】 2種類のディフェンシンについて抗菌スペクトルを解析したところ、共に口腔内真菌に対して特異的な抗菌活性を示し、他のヒト病原性細菌に対して活性は示さなかった。さらに、これらのディフェンシンは10分間の100℃の熱処理に対して安定であり、血清処理に対しても極めて高い安定性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書に記載した当該年度以降の2年間の研究計画は、[1]-2 AmyI-1のLPSもしくはLTA結合に関わる構造要因の特定、[2]-3 イネディフェンシンの抗菌スペクトルの解析と諸性質の決定、[2]-4 イネディフェンシンのX線結晶構造解析である。[1]-2に関して、決定した複合体立体構造に基づいて部位特異的変異を導入した変異体を作製することにより、それぞれの結合に関わるアミノ酸残基を特定した。これにより、1年を残して研究計画は早期に達成された。さらに、デンプンのアナログ基質との複合体の立体構造を解析することにより、LPSおよびLTAの糖鎖構造が結合に重要であることも明らかにし、当初の計画以上に進展したと言える。一方、[2]-3に関して2種類のディフェンシンの抗菌スペクトルの解析と熱安定性などの諸性質を決定した。イネゲノム中には性質未決定のディフェンシンがまだ複数種存在しているため網羅的な解析には至っていないが、既に[2]-4に示す構造解析を進めており、研究計画のとおり概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
交付申請書に記載した[1] AmyI-1の細菌内毒素に対する分子認識機構の解明に関する研究計画は、本年度までにほぼ完了した。今後は、研究計画[2]-4に従って、抗菌スペクトルの解析や諸性質の決定が済んだディフェンシンのX線結晶構造解析を集中的に進めていく。これらの立体構造から、ヒト病原菌に対するディフェンシン群の抗菌活性の強さや熱安定性などの特性と立体構造との相関を明らかにする。また、イネゲノム中に存在する他のディフェンシンについても同様の解析を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
1年目の進捗が早く、とりわけAmyI-1に対するX線結晶構造解析が期待以上に順調に進行したことから、今年度は変異体を使用した機能解析を中心に進めていた。また、ディフェンシンに関する研究計画も性質評価が中心であったことから、次年度使用額が生じた。ただ、一部の試薬は既に年度末に発注・納品済みであり、ほぼ使用計画通りに執行されている。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度は、研究計画に沿って主にディフェンシンのX線結晶構造解析を進める。それらの解析に必要なタンパク質の結晶化器具・試薬、MALDI TOF/MS用器具・試薬などの購入や大型放射光施設への旅費に使用する。また、一部のディフェンシンの大腸菌発現系における生産量が低く、結晶化に困難が予想されることから、無細胞発現系や酵母または動物細胞を利用した発現系を用いて発現量の向上を図る予定である。それらに必要な器具・試薬の購入費に充てる。
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