研究代表者は、イネ由来のα-アミラーゼ(AmyI-1)が細菌内毒素(LPSやLTA)と結合し、抗炎症などのヒト生体防御機能に関与することを過去に見出している。また、一般に抗菌活性などの多機能性が知られているディフェンシン様のタンパク質をイネゲノムから見出した。本研究課題においては、これらの生理活性タンパク質を新奇な医薬品として提案するための基盤的研究を行った。前年度までに、X線結晶構造解析などによりAmyI-1における内毒素の認識メカニズムを明らかにするとともに、イネ由来ディフェンシンが口腔内真菌に対して特異的に抗菌活性を示し、熱処理や血清処理に対して極めて安定であることを明らかにした。最終年度は、主にイネ由来ディフェンシンの立体構造の観点から機能解析を進めた。 X線結晶構造解析に必要な十分量のタンパク質を調製することが困難であったため、ホモロジーモデリングによりディフェンシンの立体構造を作製した。この構造をもとに、二次構造などの特徴からディフェンシンの部分配列を有する複数の断片ペプチドを合成し、抗真菌活性および真菌細胞膜に対する相互作用を解析した。その結果、C末端側の約8残基のアミノ酸がディフェンシンの抗真菌活性に重要であることが示唆された。そこで、当該領域に含まれる側鎖の大きいアミノ酸残基に対してアラニン変異を導入した5種類のディフェンシン変異体を作製した。それらの変異体全てにおいて抗真菌活性が顕著に低下したことから、当該領域がこのディフェンシンの抗真菌活性に重要な機能を果たすことが明らかになった。また、この領域は多数の塩基性のアミノ酸を含む。一般的なカチオン性ペプチドの多くが細菌内毒素に対して結合性を示すことから、このディフェンシンについてもそれらに対する結合性を解析した。その結果、AmyI-1には劣るものの、このディフェンシンは細菌内毒素と結合することを見出した。
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