研究課題/領域番号 |
26850078
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
稲垣 瑞穂 岐阜大学, (連合)農学研究科(研究院), 学術研究補佐員 (50626356)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ロタウイルス / ラクトフォリン / 牛乳 / 糖鎖 |
研究実績の概要 |
ロタウイルスは乳幼児下痢症の主因である。申請者らは、牛乳加熱耐性タンパク質18 kDaラクトフォリン(LP)が、ウイルスの直接的な結合によるものではなく、ウイルス感染の前にLPを細胞に1時間作用させることにより宿主細胞がウイルス増殖抑制能を獲得するというユニークな阻害様式を持つことを見いだした。しかしその阻害メカニズムは不明である。LPは、1つのN型糖鎖構造と2本のO型糖鎖構造、C末端にはαヘリックスを持つ。本年度は、LPがウイルスゲノム発現に与える影響とLPの活性に関与する分子基盤の特定について検討した。 特異的プライマーを用いた逆転写によりターゲットRNAのみをcDNA合成し、定量PCRにより各ウイルスゲノム量を定量した。その結果、ウイルス感染前のLP添加は、11分節からなるロタウイルスゲノム全てにおいて、程度に違いがあるものの概ね発現を抑制することを見いだした。このことから、LPの感染阻害メカニズムは一部のウイルスゲノムの転写阻止による阻害の可能性は低く、転写よりも初期のステップ(接着、侵入、脱殻)を阻害していると考えられた。 LPの活性に関与する分子構造の特定を試みたところ、加熱処理および酵素処理に耐性を示したことから、活性には糖鎖構造の関与が考えられた。LPからN型糖鎖を酵素的に切断しゲルろ過クロマトグラフィー(Sephadex G-25)に供することでO型糖鎖のみをもつLP(O-LP)とN型糖鎖に分離した。ウイルス感染と同時に各種サンプルを細胞へ添加することで活性を評価したところ(同時添加法)、O-LPはLPとほぼ同等の活性を示した。この結果から、活性にはO型糖鎖が重要であることが示唆された。 以上の所見より、LPに修飾された糖鎖構造が宿主細胞に対して何らかの作用を及ぼすことでウイルス感染の初期段階を抑制していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度計画した研究項目(1) LPがウイルスゲノム発現に与える影響ついては当初の目標を達成した。当初、研究計画にはなかったが、LP活性の分子基盤の推定を進める。研究項目(2)乳飲みマウス消化管の形態変化を指標としたLPの感染予防効果の検証については、LPの大量調製に時間を割いたためスケジュールが遅れており、今年度は採材まで行った。解析は次年度に実施する。
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今後の研究の推進方策 |
本年度計画した研究項目(1) LPがウイルスゲノム発現に与える影響ついては当初の目標を達成した。研究項目(2)乳飲みマウス消化管の形態変化を指標としたLPの感染予防効果の検証については、LP大量調製の分画条件の設定に時間を割いたためスケジュールが遅れている。今年度は採材まで行い、解析は次年度に実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験スケジュールの延滞および共同研究者との研究打ち合わせや学術集会などの成果発表の機会が少なかったため
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は岐阜大学応用生物科学部へ移動しての実施となるため、移動に伴った備品の購入が生じる可能性がある。次年度は論文化を見据えて、積極的に共同研究者との打ち合わせの機会をつくる。自身の研究領域だけでなく病態生理学など関連する異分野においても学術発表を予定している。これまで得られた研究成果を学術論文として発表するための諸経費(論文構成、投稿料、掲載料など)として使用する。
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