昨年までに、我々は、抗うつペプチドYLの標的受容体をPull-down法を用いて探索したところ、候補受容体として骨形成タンパク質(BMP)受容体タイプ1A(BMPR1A)が検出された。さらに、YLの抗うつ作用にBMPR1Aを介したシグナルが関与しているか否か、RNAiにより、BMPR1A発現を抑制したマウスを用いて検討したところ、BMPR1A発現を抑制したマウスにおいては、YLの抗うつ作用が見られなかった。そこで、Neuro2a細胞のSmadリン酸化を指標にして、YLがBMPシグナルに及ぼす影響を調べた。その結果、BMP2添加により起こるSmad1/5/8のリン酸化が、YL添加により抑制された。このことから、YLはBMPシグナルを抑制する作用を示すことが明らかとなった。以上より、YLはBMPR1Aに何らかの作用をしBMPシグナルを抑制することで、抗うつ作用を示す可能性が示された。 一方、海馬の神経新生の促進が、抗うつ様行動に密接に関わっていることが報告されている。昨年までに、BrdUを用いて海馬神経新生を調べたところ、YL投与により、海馬神経新生が促進することが明らかになった。本年度は、BMPシグナルと海馬神経新生との関連について検討した。海馬神経幹細胞を培養し、BrdUを用いて増殖活性を検討したところ、BMP2添加により神経幹細胞の増殖が抑制されるのに対し、YLを事前に添加すると、BMP2による神経幹細胞の増殖抑制が見られなくなった。これらのことから、YLは、BMPシグナルを抑制することで、海馬神経新生を促進していることが示唆された。 以上より、ジペプチドYLはBMPシグナルを抑制することにより、海馬神経新生を促進し、そのことが抗うつ作用に関与していることが示唆された。
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