本年度は、前年度の結果を踏まえ、ケルセチンのヒドロキシル基を修飾置換した結果、ケルセチンよりもアポトーシス誘導が増加したアセチルケルセチンおよび逆に活性を示さなくなったベンジル化ケルセチンの二つを用い、オートファジー誘導の定量化ならびにアポトーシス細胞死とオートファジー細胞死のクロストークの解明、さらに動物実験を実施した。 まず、オートファジー誘導の有無を定量化するために、申請者はRFP-GFP-LC3を安定発現させたヒト由来大腸がん細胞を用い、フローサイトメトリー法で解析を行った。結果、ケルセチンおよびアセチル化ケルセチン処理でオートファジーフラックスが見られたのに対し、ベンジル化ケルセチンはオートファジーを誘導しないことが明らかになった。次にアポトーシスとオートファジーのクロストーク機構を解明するにあたり、siRNAトランスフェクション法を用い、オートファジーに必須とされるAtg7をノックダウンした。この条件下で、アポトーシス誘導能の変化を観測したところ、ケルセチンおよびアセチル化ケルセチンを処理した両細胞において、アポトーシス誘導の割合に変化が無く、これらが引き起こすアポトーシスとオートファジーは互いに関与しない可能性が示唆された。また、動物実験では、サンプルを定期的に経口投与したマウスに化学発ガン物質であるアゾキシメタンの腹腔内投与および誘発大腸炎モデルに使用されるデキストラン硫酸ナトリウムの自由飲水を組み合わせ、大腸がんを誘発させる一方、さらに一定期間サンプルを投与し続けた。マウスの体重、腸管長、脾臓の重さにより炎症具合を測定すると共に大腸の腫瘍の数や大きさをコントロールマウスと比較した結果、ケルセチンおよびアセチル化ケルセチンを摂取させたマウスにおいて、わずかに腫瘍の数が少ない傾向が得られたが今後さらに詳細な検討が必要と考えられる。
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