セレノプロテインP (SeP)はセレン含有アミノ酸であるセレノシステイン(Sec)を10残基有する血漿セレンタンパク質であり、細胞にセレンを運搬する重要な役割を持つ。SePの血中濃度と2型糖尿病との相関関係が報告されていることから、本研究ではSeP の長時間添加が膵臓β細胞由来細胞株に与える影響について検討を行った。 前年度までに、糖尿病態の血漿SeP濃度に相当する10 μg/mlにおいてSePがMIN6細胞特異的にアポトーシスを誘導すること、セレン脱離酵素に関する検討から、細胞死のメカニズムにはセレン元素自体が関わる可能性を示唆した。 本年度はさらに詳細な検討を行った。SeP添加により、小胞体(ER)ストレスマーカーである転写因子CHOP及び分子シャペロンGRP78の誘導が生じた。更にERストレスを抑制することが報告されている4-フェニル酪酸(4-PBA)により細胞死が抑制されたことから、SePはMIN6細胞において、ERストレスを介したアポトーシスを誘導していることが示唆された。 SePが細胞機能に与える影響について解析を行った。SePによるMIN6細胞死は添加後72時間以降に生じるが、細胞内インシュリン合成・分泌共に、SeP添加後48時間において既に有意に低下した。細胞死と同様、SePによるインシュリン合成・分泌低下は4-PBAにより改善された。以上のことから、過剰のSePが与えるERストレスが、初期にはインシュリン合成・分泌の低下を惹起し、最終的にβ細胞のアポトーシスに関与することが示唆された。 本研究を通し、糖尿病態における血中の過剰なSePが、膵臓β細胞内にERストレスを惹起しβ細胞の機能障害及び細胞死による脱落を生じさせる可能性が考えられた。今後、SePにより制御されるERストレス機構の更なる解析により、β細胞障害の抑制法の開発に繋がることが期待される。
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