研究課題/領域番号 |
26850090
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研究機関 | 独立行政法人理化学研究所 |
研究代表者 |
宮内 栄治 独立行政法人理化学研究所, 統合生命医科学研究センター, 訪問研究員 (60634706)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / 多発性硬化症 |
研究実績の概要 |
多発性硬化症モデル(experimental autoimmune encephalomyelitis, EAE)マウスに各種抗生物質(Ampicillin, Vancomycin, Neomycin, Metronidazole)を飲水投与した結果、ampicillin投与により脊髄へのCD4+T細胞の浸潤および四肢の麻痺といったEAE症状が抑制された。また、EAE発症誘導により小腸粘膜固有層でミエリンペプチド(MOG)特異的なCD4+細胞が活性化すること、ampicillin投与によりこれらの細胞の活性化が抑制されるとを確認した。これらの結果から、ある種の腸内細菌がMOG特異的なCD4+T細胞の活性化を小腸で制御することが示唆された。 各種抗生物質を投与したマウスの小腸内容物の16S rRNAメタシーケンシングを行った結果、ampicillin投与によりErysipelotrichaceae科の菌株が有意に減少することが明らかとなった。そこで同菌株を単離培養し無菌マウスに定着させたところ、無菌マウスに比べEAE症状が悪化することを確認した。また、小腸粘膜固有層においてTh17の活性化が誘導されたこと、さらには小腸でのserum amyloid A発現およびIL-23発現が有意に増加したことから、本菌株はSegmented filamentous bacteria(SFB)と同様のメカニズムでTh17細胞の分化を誘導することが示唆された。また、Th17はEAE発症において中心的な役割を果たしていることから、今回単離した菌株はMOG特異的なTh17細胞を小腸で活性化することによりEAE病態悪化を促進することが示唆された。 今回単離した菌株のゲノムシーケンシングを行った結果、本菌株は細胞外多糖を高産生することでバイオフィルムを形成し、宿主腸管上皮細胞に定着することが示唆された。現在、Th17細胞の活性化に寄与する因子を探索中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定どおり、中枢神経系炎症に関与する菌株の同定、単離培養、さらにはモノアソシエイトマウスの作製を行うことができた。また、本菌株の宿主への影響(小腸粘膜固有層におけるTh17細胞の活性化)を確認することができた。これは、平成27年度実施予定である「中枢神経系炎症に関与する菌活性成分の作用メカニズムの解明」を行うあたって、非常に重要な結果である。 また、本年度の予定であった関与菌株のゲノムシーケンスを完了した。得られたシーケンスのde novoアセンブリおよびアノテーションを行ったが、complete配列を得るには至っていない。しかし、draftゲノム配列をvirulence factor databaseに対してBLASTを行い、宿主に影響を及ぼす可能性のある遺伝子群の抽出を完了している。現在、さらなる解析を行うことにより、平成27年度実施予定の遺伝子欠損株作製の準備を進めている。また、モノアソシエイトマウスの小腸内容物から菌トランスクリプトーム解析を行う予定であったが、今年度はシーケンシングデータを得るまでに留まっており、来年度に詳細な解析を行う予定である。 以上のように、当初予定していた計画どおりに進展しており、来年度実施予定の実験準備も順調に行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
今回単離した中枢神経系炎症に関与する菌株からゲノムシーケンスおよびトランスクリプトーム(RNA-seq)データをすでに取得している。今年度はこれらのデータを詳細に解析することにより、中枢神経系炎症に関与する活性成分候補遺伝子の探索を行う。また当初の予定どおり、上記解析により短鎖脂肪酸を始めとする代謝物の関与が疑われた場合、腸管内容物のメタボローム解析を行う。現在、核磁気共鳴装置(NMR)に加えLS-MS/MSによるメタボローム解析条件を検討中であり、これらの手法を組み合わせることにより低濃度代謝物の変動も解析することを目指す。 上記の解析による菌活性成分の同定を行うとともに、作用メカニズムの解析を行う。今回単離した菌株の作用機序として、小腸粘膜固有層のTh17細胞の活性化が関与することをすでに確認している。また、本作用にはserum amyloid Aを介したIL-23発現亢進が関与することを示唆するデータを得ている。これらの情報をもとに、腸内細菌によるMOG特異的Th17細胞の活性化メカニズムの解明を試みる。具体的には、単離精製した菌活性成分を無菌マウスに投与し、腸管上皮細胞のメタトランスクリプトーム解析を実施する。これにより、腸管上皮細胞からのserum amyloid A産生促進に寄与する細胞内シグナル経路を解析する。また、小腸粘膜固有層で活性化したMOG特異的Th17細胞が中枢神経系炎症促進に関与するのか、本細胞を単離精製後、adoptive transfer EAEモデルを用いて確認を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた旅費を今年度は使用しなかった。招待講演(広島)では旅費等を主催者から負担して頂いた。また、一般発表を行った日本分子生物学会年会は横浜開催であったため、宿泊費等が不要となった。その他、日本免疫学会学術集会で発表予定であったが、実験の進捗の理由により今年度は発表を控えた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度発表予定であった日本免疫学会学術集会で発表を行う。また、日本分子生物学会年会および日本農芸化学会など、当初の予定より多くの学会発表を行う予定である。
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