研究課題/領域番号 |
26850093
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
深澤 遊 東北大学, (連合)農学研究科(研究院), 助教 (30594808)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | トウヒ / 倒木更新 / 腐朽型 / コケ / 菌類 |
研究実績の概要 |
トウヒ属は北半球の温帯以北の地域において優占する林業上重要な針葉樹であり、倒木上に実生が更新するという特徴をもつ。本邦におけるトウヒの分布南限である紀伊半島の大台ケ原では、近年トウヒの実生更新が阻害される現象が知られており、トウヒ林の存続が危惧されている。本研究では、倒木の分解に関わる菌類群集とその分解機能に注目し、トウヒ実生の倒木上での更新に及ぼす影響を明らかにする。トウヒ実生の良好な更新が確認されている他の調査地との比較から、大台ケ原などにおけるトウヒの更新阻害に関する微生物学的要因の解明を目指している。平成26年度は、長野県の八ヶ岳、乗鞍岳、御嶽山の3つの地域において、合計5カ所の調査地において倒木の腐朽型およびコケ、トウヒ実生の野外調査を行った。御嶽山のデータを解析した結果、倒木が褐色腐朽というリグニンの蓄積した分解様式をとっている場合、直接的にはトウヒ実生の定着は阻害されており、ヨーロッパにおける先行研究を裏付ける結果となった。ただし、倒木の褐色腐朽は、倒木上のコケ群集に影響を与えており、御嶽山でのコケ優占種のうち、タチハイゴケよりもキヒシャクゴケが褐色腐朽した倒木上で被度が大きくなっていた。コケの種がトウヒ実生の定着に与える影響を調べたところ、トウヒ実生密度はタチハイゴケよりもキヒシャクゴケの上で大きかった。以上の結果から、倒木の褐色腐朽は直接的にはトウヒ実生の定着を阻害するが、倒木上のコケ群集を介して間接的にはトウヒ実生の定着を促進することが分かった。本結果を、日本生態学会東北地区会にて口頭発表し、最優秀賞を受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた全調査地10カ所のうち、3カ所について調査できただけでなく、予定していなかった2調査地についても研究協力者を得て、データを得ることができた。そのうちの1カ所(御嶽山)のデータを詳細に解析した結果、先行研究のデータを裏付ける結果が得られただけでなく、倒木上の生物間相互作用によって倒木の腐朽型が実生に与える影響が逆転するという、これまで報告されていなかった非常に興味深い効果が見つかった。この結果は科学的にも新規性が高いので、早々に論文として国際誌に投稿する予定である。また、本研究課題で注目すべき調査地としている奈良県の大台ケ原における調査の注目点を絞る上でも、非常に有益な知見と言える。このように、実施1年目の野外調査において十分な地点の野外データを得られただけでなく、科学的な新知見を得ることができたことから、おおむね順調に進行しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、山梨県、静岡県、長野県、奈良県の未調査の調査地での野外調査をすべて終わらせる予定である。調査区において胸高直径1cm以上の全ての木本の胸高直径を測定して植生のデータとする。調査区内の直径10cm以上の倒木すべてについて直径と長さ、および5段階の分解段階、可能であれば樹種を記録し、調査区の面積あたりの倒木の面積の割合を算出して、トウヒ実生の定着サイトとしての倒木の面積割合を評価する。平成26年5月~10月に、倒木ごとに発生している菌類の子実体とトウヒ実生、コケの被度を記録する。新鮮な子実体試料については組織の一部や胞子を用いて菌株の分離を行う。分離菌株は、出現頻度の高かった菌種について、それぞれの種につき少なくとも3菌株ずつ確保する。先行研究から、分解の進んだ倒木(分解段階4)において最も実生密度が高いことが分かっているので、分解段階4の倒木では腐朽型を記録するほか、材サンプルを採取し、実生の生存・成長に影響すると予想される水ポテンシャル・pH・可給態養分量(窒素・リン)の分析を行う。また、材サンプルから菌類のDNA抽出を行い、次世代シーケンサーを用いたメタゲノム解析により、子実体調査では検出できない病原菌や菌根菌も含めた菌類相を調べる。さらに、実生をサンプリングし、地上部/地下部割合や根系の菌根化率を調べる。得られたデータから、気候や植生・分解菌・腐朽型・病原菌・菌根菌・コケ・pH・養分が倒木上の実生に与える影響の流れとそれぞれの重要性を、構造方程式モデリングにより解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は計画していた以上にサンプリングが進み、一定量のサンプルを得ることができたので、当初は2年目に予定していた次世代シーケンサーによるメタゲノム解析の第1回目を行い、得られた結果をタイ国にて開催された国際菌学会にて発表した。これらの費用のために60万円を見込んで前倒し請求したが、実際には旅費の使用額が見込みより少ない額ですんだため、次年度への繰越金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は、この繰越金と、請求額130万円を使用する。本年度も野外サンプリングの旅費と、得られた材サンプルをDNA分析する試薬の購入費用、次世代シーケンサーによる分析の外注費用に当てる予定である。
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