平成28年度は、倒木上のコケとトウヒ実生の菌類群集の解析を行った。倒木上で優占していたコケ2種(キヒシャクゴケ、タチハイゴケ)及びコケのマット上や地上から採取したトウヒ実生の根からDNAを抽出し、菌類に特異的なプライマー(ITS1F/ITS4)を用いてrDNAのITS1領域を増幅したのち、次世代シーケンサー(イルミナ社、MiSeq)により遺伝子配列の決定を行った。得られたDNA配列情報から、各サンプルに含まれている菌類の操作的分類群(OTU)を決定した。 コケからは子嚢菌類、実生根からは担子菌類が高頻度で検出された。非多次元尺度計量法により菌類群集の解析を行ったところ、コケの種間で菌類群集は有意に異なっていた。また、トウヒ実生の根の菌類群集は、実生が定着している基質の影響を有意に受けていることがわかった。さらに、実生の根から検出された菌根菌OTUのうちのいくつかは、その実生が定着していたコケからも共通して検出された。これらの結果は、倒木上のコケの種によって異なる菌類群集が、コケのマット上に定着するトウヒ実生の生存や成長に影響酢る可能性を示している。 一方、倒木の腐朽型がコケの成長に与える影響について、コケの栽培実験を行った。御嶽山の調査地から採取した白色腐朽材及び褐色腐朽材を粉砕して木粉(5mmメッシュ通過)としポットに詰め、その上に5mm程度に切断したコケ(キヒシャクゴケ、タチハイゴケ)を混ぜ込み、半年間栽培した。その結果、キヒシャクゴケの成長は白色腐朽材よりも褐色腐朽材で大きくなった。一方、タチハイゴケの成長は白色腐朽材と褐色腐朽材で差がなかった。これらの結果は、野外で観察されたキヒシャクゴケが褐色腐朽材上に高頻度で観察される現象をよく説明している。
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