近年の研究により、茎の木部液に張力がかかった状態であっても、空洞化した道管を再び水で満たす再充填現象の発生が起きることが、多数の植物種で確認された。木部張力下で、空洞化した道管への水の再充填に必要な「道管内腔にかかる陽圧を保つ仕組み」として、道管間の放射方向の連絡通路である壁孔に入った気泡が、機能している道管と再充填中の道管とを遮断するという仮説(壁孔仮説)が提唱されてきた。しかし、これまでに実験的な証明はなされていない。 本研究では、落葉広葉樹のヤマグワ(Morus australis)を用いて、実験的なアプローチと理論的なアプローチによって壁孔仮説の実証を試みた。ヤマグワでは、乾燥ストレス後に潅水した個体で茎の通水性の回復が確認された。再充填にかかる時間と気泡の溶解速度から推測される再充填中の内腔にかかる圧力はわずか4 kPaであった。これに対して、壁孔内に気泡が入った状態を実験的に再現し、25 ~ 100 kPaの陽圧下でも気泡が維持できることを示した。しかし、Pressure probe法を用いた道管一本レベルで再充填中の道管内腔にかかる圧力の測定では、数十回の試行のほとんどすべてで陽圧は観測できなかった。また、壁孔内の気泡の再現実験からは、壁孔内の気泡が消える圧力は壁孔によって異なることが示された。これは、再充填中の道管内の水が、再充填が完了する前に周囲の道管内の水とつながる可能性を示唆している。このとき、再充填を完了させるためには、道管内腔へ水が流入する速度が隣接する道管へ水が流出する速度を上回る状態を作り再充填中の道管内の陽圧を維持する必要がある。しかし、文献値とヤマグワでの測定値から推定された値では、両者の間には1000倍程度の差があることが明らかになった。この結果から、木部張力下における再充填現象には、新たな仮説の提唱が必須であることがわかった。
|