研究課題
ニューカレドニア島は多くの針葉樹が適応放散を遂げた地域として知られているが,その種分化プロセスについては未解明の部分が多い.本研究では,ニューカレドニア島に侵入した後に,蛇紋岩土壌と乾性低木林への適応進化が共通して起きたヒノキ科2属(Callitris属とLibocedrus属)に着目し,それらの生態的種分化に関わった適応遺伝子を生態ゲノミクスによって特定すること,また種内の遺伝分化に影響する景観要素を特定し,対象植物の進化史を解明することを目的としている.平成27年度は,Callitris属で初期に分岐したC. sulcataについて,現在確認されている全集団から集団遺伝試料を採取し,その集団分化過程を解析した.集団遺伝解析のために,新規に14座の核SSRマーカーと5座の葉緑体SSRマーカーを開発した.葉緑体SSRの開発にあたっては,次世代シークエンサーを利用して本種の葉緑体ゲノム(コンティグ長131,609bp)を決定し,そこから59のSSR領域を単離,5座の多型マーカーを得た.集団の遺伝的多様性は,核SSRヘテロ接合度が0.679-0.755と高いレベルが推定された一方で,3つの河川沿いに隔離されている集団間では高い分化度を示した(核SSR G’st=0.509, 葉緑体SSR Gst=0.148).さらに,河川からの距離・地形変量を考慮した分布予測モデルに基づいて集団間の抵抗距離を計算し,遺伝的分化との関係を調べたところ,単純な地理的距離よりも相関係数が高まった.また,隣接する河川間での遺伝的分化は約3-5,000世代前に起こり,祖先集団からの分化後に集団サイズが減少したことが,集団動態モデリングから示された.このことから,河川沿いの低地湿性林に分布する本種の集団分化には,ニューカレドニアの複雑な山地地形が隔離要因として重要であったことが示された.
2: おおむね順調に進展している
本年度はC. sulcataについて種内の集団分化の歴史を,両性遺伝する核マーカーと父性(花粉)遺伝する葉緑体マーカーで調べることで,河川集団間で高い遺伝的分化が生じていることが明らかになった.これは,ニューカレドニアにおける針葉樹の集団分化に地形が重要な影響を及ぼし,種子・花粉の移動が長期に渡って制限されていることを示す成果である.また,IUCNの危急種に指定されているC. sulcataの域外保全集団が設立されているが,本研究で得られた知見を反映させてそうした集団の管理を行うことが可能となった.
今後は,研究対象としている他の樹種,とくに比較的幅広い環境傾度に分布が及んでいる種について,RAD-seq解析とRNA-seq解析を行い,種内での環境適応に関係するゲノム領域を特定することを目指す.
平成27年度は,ニューカレドニアでの海外調査受け入れ体制が整わず,集団解析に用いる試料を1種分しか採取することができなかった.そのため,旅費及び解析に用いる物品の購入を次年度に繰越すこととした.
平成28年度の早い時期にユーカレドニアへ渡航し,解析対象としている残りの種について集団遺伝解析を行う.得られた集団試料はRAD-seq解析を行うことで,集団分化動態を復元する.
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 3件、 査読あり 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件)
American Journal of Botany
巻: 103 ページ: 246-259
10.3732/ajb.1500433
Applications in Plant Sciences
巻: 3 ページ: 1-3
http://dx.doi.org/10.3732/apps.1500045
Tree Genetics & Genomes
巻: 11 ページ: 1-12
10.1007/s11295-015-0944-0